一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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石細胞など厚壁細胞の役割

質問者:   その他   山田 康二
登録番号0430   登録日:2005-11-25
今、チャ節の植物の内部組織の研究をしているのですが、石細胞や蓚酸カルシウムをよく見つけます。
植物形態学や植物解剖の本を読んでも、これらの異形細胞がどのように働き、どのようなときに発生するのかがのっていないので、よろしくお願いします。
ちなみに私が観察した時は、葉の成熟したものと若いものでは蓚酸カルシウムの分布や石細胞の大きさに違いがある気がしました。まだ統計的には結果は出していませんが。
山田康二さま

 貴兄のご質問の回答を、この先生以外には誰にも回答できないと思って、元千葉大学教授の福田泰二先生にお願いしたのですが、福田先生も長年石細胞の役割については気にかけ続けて来たのですが、分からなかったそうで、貴兄の期待していたような回答は頂けませんでした。どなたか、他の方で分かりそうな方はいませんかと伺ったのですが、貴兄のご質問と関係ある研究をしていた人は知らないとのことでした。貴兄ご自身で答えを見つける以外になさそうです。お役に立てなくて申し訳ございません。

 柴岡 弘郎(JSPPサイエンスアドバイザー)


山田 康二様

昨年受けていました「石細胞など厚壁細胞の役割」について質問に対して、京都工業繊維大学の杉村順夫先生から回答が届きましたので、遅くなしましたが送ります。

 勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)

回答
ご質問に関連して、先ず始めに、異形細胞についての基本的な情報を記載します。
異形細胞とは:
ある組織内で、周囲の細胞とは形、大きさ、構造、内容物などが異なる細胞が存在する場合があり、これらの細胞を異形細胞とか巨細胞と呼ばれている。この細胞には、各種の結晶を含んでいる結晶細胞、タンニンを分泌するタンニン細胞、細胞壁が厚化した厚壁異形細胞などに大別され、いずれも組織内に単独あるいは複数個がかたまって散在する。
1. 蓚酸カルシウム結晶を持つ異形細胞について
蓚酸カルシウム結晶を持つ結晶細胞は単子葉・双子葉植物の区別なく、215科以上の植物から観察されている。その含量は体内の全カルシュウム量の10%以上に達する。蓚酸カルシウムの結晶形態は、多数の細かい結晶が集まった結晶砂、結晶が集まって金平糖状になった集晶、針状結晶が多数平行に並んで束状になった束晶、棒状の結晶、プリズム状の結晶がある。グリオキシル酸やアスコルビン酸が蓚酸の前駆物質と考えられ、体内のカルシウムイオンと結合し、結晶化が起こる。結晶形成が起こる細胞内部位は液胞であるが、細胞壁や細胞間隙に蓄積する場合もある。蓚酸カルシウム結晶により、カルシウムイオンが不溶化され、体内カルシウムイオンや浸透圧のバランスを保つ役割を果たしていると言われている。また、植食性昆虫に対する防御物質として働くと理解されている。
 最近、蓚酸カルシウムの細胞内形成機構の研究から、結晶形成と蓄積は単なる化学的な結晶沈澱反応ではなく、細胞生物学的に高度に制御されていることが明らかになってきた。結晶細胞では、小胞体の発達、ユニークな液胞形態の発達が観察されると共に、カルシウム結合蛋白質(calreticulin)が検出され、細胞外から細胞内、さらに液胞内へのカルシウム移動が制御され、結晶形成に必要なカルシウムイオンが供給されている。また、単離した結晶から特異なタンパク質が検出された。このタンパク質は結晶表面に存在し、カルシウムとの結合能力を持つことから、結晶核の形成と成長・沈積に関わっていると示唆されている。加えて、結晶は膜状構造で取り囲まれ、多糖類、糖タンパク質、タンパク質が含まれており、結晶形態の決定に関与していることが示唆されている。
2.炭酸カルシウム結晶を持つ異形細胞
キツネノマゴ科、ウリ科、クワ科、イラクサ科植物から、炭酸カルシウム結晶を蓄積した結晶細胞が観察されている。結晶の蓄積部位は、葉の表皮層にある結晶細胞の細胞壁内膜が細胞内部に大きく貫入してできた袋状の構造体(鐘乳体と呼ばれている)であり、その内部にアモルファス構造の微細な炭酸カルシウムが密に蓄積する。時には、表面に結晶が付着している場合もある。一般的には、蓚酸カルシウム結晶のように光学顕微鏡では観察できない。これまで、鐘乳体を炭酸カルシウムの結晶体であると説明されてきた。しかし、最近の研究から鐘乳体は結晶形成の「場」であることが明らかになった。細胞壁由来の鐘乳体に炭酸カルシウムが沈積することから、細胞外でのカルシウム、炭酸および重炭酸イオンの濃度制御に関わっていると考えられる。
 蓚酸カルシウムや炭酸カルシウム以外にも、酒石酸カルシウム、珪酸塩の結晶を蓄積する植物もある。

次に、具体的な御質問について、コメントと考察を加えたいと思います。
 私達が取り扱っているクワでは、下位葉(成熟葉)になるに従って、葉当たりの蓚酸カルシウム含量は増加します。これは、葉の成熟に伴い結晶細胞のサイズが大きくなり、結晶の肥大化が起こるためです。葉当たりの結晶細胞数は上位葉(未熟葉)でも下位葉でも大きく変わりませんでした。このことから、異形細胞の分化は極めて早い時期に決定されており、環境・栄養条件、葉の成熟度などで後天的に異形細胞に変換するとは考えていません。しかし、植物の種類や葉以外の組織では、クワ葉とは異なった異形細胞の形成パターンを持つかもしれません。
 体内のカルシウム含量に応じて、蓚酸カルシウム・蓚酸+カルシウムが起こることが報告されており、カルシウム欠乏になると蓚酸カルシウム含量は低下することになります。通常の栽培法で育成した成熟葉では、必ず結晶細胞が観察できると思います。

 杉村 順夫(京都工芸繊維大学工芸科学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
 勝見 允行
回答日:2006-01-20
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