一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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葯培養

質問者:   高校生   宮武彩香
登録番号0444   登録日:2005-12-13
今学校でキクの葯培養をやっていて、順調にカルスができ分化も始まっているのですが、新しく生まれたキクの染色体数が、ちゃんと元の半分になっているかどうかを調べるのに何かいい方法は無いでしょうか?
宮武 彩香様

昨年12月にいただいた質問(登録番号0444)の回答ができましたので、遅ればせながら送ります。
回答は千葉大学園芸学部の木庭卓人教授に書いていただきました。大変詳しくていねいに手順がかかれていますので、きっとうまくいくと思います。


回答:
できたカルスおよび再分化個体が半数体であるかどうか(つまり花粉由来であるのかどうか)を確認するには,それぞれカルス細胞および再分化個体の根端細胞の染色体を観察すればいいのですが,カルス細胞の染色体観察は難しく時間と根気を要しますので,ここでは再分化個体の根端細胞を用いた観察方法を紹介します。再分化が始まっているとのことですので,不定根や不定芽を発生しているのであろうと思います。根が十分に発達しているのであれば,寒天(またはゲランガム)から取り出して,すぐに根端を採取することが可能です。また,順化したあと観察することも可能です。

1.寒天(ゲランガム)培地から幼植物をそっと取り出して,ピンセットで5mmから7mmほどの根端を切り取り,0.002M8-ヒドロキシキノリン溶液に10〜15℃で約3時間前処理(この溶液は毒性がありますので必ず手袋着用)。ヒドロキシキノリン溶液がない場合は,冷水による前処理でもいいかと思います。根端を新しい管ビン(2mlまたは5ml)に半分ほど入れた脱イオン水に2本ずついれ,それを砕いた氷の中に24時間つけます。発砲スチロールの箱にクラッシュアイスをつめ,その中に管ビンを入れて,ガムテープで密閉します。それを冷蔵庫に24時間いれておけばいいです。
2.管ビンから根端を取り出して,ろ紙上において水を除き,その後,45%酢酸液に5〜10℃で10分浸漬(固定)。
3.1N塩酸2に対して45%酢酸1の割合の混合液(直前に混合)に60℃で20秒浸漬(解離)。
4.スライドグラス上で根端の最先端約1mmを切り取り,これに1%オルセインを1滴かける。このまま45%酢酸蒸気箱にいれて30分間乾燥させないようにして放置(染色)。
5.カバーグラスをかけ,その上からそっとつまようじでたたいて細胞を分離分散させる。ろ紙をかぶせて,カバーグラス周辺の余分の染色液を吸い取る。
6.約70℃に加熱,冷却し(アルコールランプに軽くさらす程度),ろ紙をかぶせて上から指で強く押しつぶす。
7.顕微鏡で観察する。

順化の方法:幼植物体をバーミキュライトを満たしたビニールポットに移します。乾燥しないように十分に水をあげて,上からビーカーをかぶせておきます。
これで2,3日順化します。乾かないように時々水をあげます。根がバーミキュライトに活着したと思われたらビーカーを取り外して外気に触れさせます。また,液肥を含んだ水をあげるようにします。これで十分に根を伸長させます。この後,根端を切り取って,上記の方法で染色体観察を行います。
大切なところは前処理です。前処理がうまくいってないと間期の核のみが見えて目的とする中期の核がなくなっていることがあります。冷水処理を行う場合
は,新しい管ビン,きれいなピンセット(他の溶液に触れていない),新しい脱イオン水を使ってください。

 木庭 卓人(千葉大学園芸学部)
JSPPサイエンスアドバイザー
 勝見 允行
回答日:2006-02-20
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