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ヒル反応におけるシュウ酸鉄(Ⅲ)の変化について

質問者:   教員   菜刻み
登録番号4446   登録日:2019-06-12
ヒル反応の実験で用いられたシュウ酸鉄(Ⅲ)という物質を調べていて、「光還元」という反応が生じることを知りました。
教科書的には、鉄イオンの還元はチラコイドにある光化学系から電子を受容することにより起こると認識していますが、照射した光子によって還元が起こる可能性はないのでしょうか?。
また、光還元ではシュウ酸イオンの分解により二酸化炭素が生成されるとの記述もありました。もし、二酸化炭素が存在するのであれば、発生した酸素が水分子に由来することの証明が成り立たなくなりはしませんか?。ご回答をよろしくお願いいたします。
菜刻み さん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
ご質問、私が担当することになりましたが、同じJSPPサイエンスアドバイザーである桜井英博先生が光合成のご専門ですので、回答を桜井先生にお願いしました。

【桜井先生からのご回答】
光合成の中心的反応は、葉緑体が光化学反応によって光エネルギーを酸化還元エネルギーに変換することであり、酸化側ではH2Oが酸化されて2H2O -> 4e- +4H+ +O2の反応が起こり、還元側ではフェレドキシンやNADP+などがe-を受け取って還元されて還元型フェレドキシンやNADPHとなり、更に一連の過程で高エネルギー物質ATPも合成されます(光リン酸化)。葉緑体内では、更に、NADPHとATPを使って、CO2の同化が起こります。ヒルの報告までは、葉の中で起こる光合成の過程は、光照射によるO2の発生からCO2の同化に至るまでを丸ごとの反応として観察するより仕方がありませんでした。
ところがヒルは、シュウ酸鉄(III)、還元型ヘモグロビンと葉緑体の破片(チラコイド膜)を含む溶液に可視光を照射すると、ヘモグロビンの酸素化が起こることを発見しました(1937年)。この報告は、光合成全体の反応を、酸化還元反応(水の分解とO2の発生)とそれ以降のCO2同化反応に大別できることを示した画期的なものでした。
細かいことを言えば、この研究に難点が全くないわけではないという面も指摘できるでしょう。菜刻みさんの質問のように、シュウ酸鉄(III)が光照射によりシュウ酸が分解されて電子供与体となって、鉄の還元(Fe(II)を生じる)が起こるからです。しかし、光照射により鉄の還元は起こっても、O2の発生は起こりません。また、シュウ酸鉄(III)の光化学反応に有効な光の波長は主に近紫外域以下の短波長域であるのに対し、葉緑体による反応は可視域で起きるという違いがあります。したがって、ヒルの研究に本質的な難点はなく、その業績は高く評価されています。
なお、この問題に興味があるなら、インターネットの「光合成事典」(日本光合成学会)をみると、「ヒル反応」、「光合成電子伝達系」等に関する詳しい解説が載っています。





桜井 英博(JSPPサイエンスアドバイザー)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2019-06-20
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