一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

チェックリストに保存

円錐花序の説明について

質問者:   高校生   コニーザ
登録番号4910   登録日:2020-10-31
道端でたくさん分岐したヒメムカシヨモギを見てなぜ上の方で分枝するのだろうと思いました。
そこで登録番号0843を読んだところ腋芽は伸長し枝になったり直接花になったり休眠したりする、腋芽抑制の具合で形が変わるとありました。
ヒメムカシヨモギは上の方で叢生しますが下の方に側枝は見られません。箒状です。生長の途中で茎頂の状態が変わったのだと思うのですが、生理学的にどう説明されますか。

キク科で図鑑を引くと夏頃に頂方で盛んに分枝するという種がいくつかあり、形態的に円錐花序とされていました。
コニーザ様

植物Q&Aのコーナーを利用下さりありがとうございます。
植物の主軸の先端には分裂組織があり、葉の原基を作りながら継続して細胞分裂を続けます。作られたそれぞれの葉の基部には腋芽が存在しています。その腋芽が伸びだすかどうかは、植物全体の形状を決める大きな要因です。伸びだした腋芽の先端には主軸と同様に分裂組織があり、葉の原基を作りながら分裂を続けます。作られた葉の基部にはやはり腋芽が存在しています。この腋芽が伸びだすかどうかも同様に植物全体の形状に影響を与えます。
このように全体の形状に影響する腋芽の伸長がどのように制御されているかということについては、植物Q&Aの登録番号4351 にわかりやすく解説されております。その解説を読んで頂ければよいのですが、かいつまんで言いますと、わかっていることは、側芽の伸長に必要な遺伝子があること、サイトカイニンが側芽伸長の開始に必要であること、先端の分裂組織からのオーキシンの流れがサイトカイニンの合成を抑え、側芽の伸長を抑制すること、根で合成されたストリゴラクトンという植物ホルモンも側芽の伸長を抑え、その働きを抑えると腋芽が多数伸びだして叢状になることなどです。遺伝子やこれらの植物ホルモンの相互作用で腋芽の伸長が制御されていると思われます。
例えば、短日植物が日長が短くなると夏から秋に花をつけるように、条件が整えば、それまで葉を作りながら成長していた植物が、花序を形成して花をつけるようになります。その際、葉の原基を作りながら分裂を続けていた茎頂分裂組織(栄養分裂組織)は花序(枝上の花の配列状態)の主軸を形成する分裂組織(一次花序の分裂組織)に転換します。植物によって異なりますが、一次花序から二次花序の分裂組織を形成してそれが伸びだして二次花序(時には三次花序)を作るものもあります。二次花序は栄養成長時の側枝にあたります。一次花序、二次花序は条件が整えば、花芽分裂組織を形成します。栄養分裂組織と花序の分裂組織で大きく異なるところは、栄養分裂組織が継続的に分裂を続けるのに対して、花序の分裂組織は花芽を形成した時点で成長が止まるという点です。
花序の形や大きさは、一次花序の分裂組織が花芽に転換するまでにどのくらい二次花序を形成するか、二次花序の分裂組織が花芽分裂組織の形成に転換するタイミング、二次花序の分裂組織の花芽分裂組織への転換のタイミングなどが重要だと考えられています。円錐花序は、二次花序、三次花序と何回も分枝し、二次花序の一次花序の主軸上の位置が低いほど枝が大きく成長するため全体として円錐形(叢生)になります。二次花序形成の制御機構については、キク科植物では知りませんが、分子遺伝学的解析のモデル植物であるシロイヌナズナやイネを用いた研究では、二次花序形成でも栄養成長時の腋芽形成に必要な遺伝子が必要であること、サイトカイニンが二次花序の分裂組織形成に必要なこと、ストリゴラクトンが二次花序形成でも抑制効果を示すことなどが知られており、基本的には栄養成長における腋芽の形成と同様な制御機構が働いていると考えられます。キク科植物の茎の上部で見られた円錐花序の形成は、栄養成長時の茎頂分裂組織が一次花序の分裂組織に転換する条件下で、二次花序の分裂組織形成の抑制が外れたためと考えられますが、その機構は明らかでありません。今後、円錐花序形成における、側芽形成に関わる遺伝子やオーキシン、サイトカイニン、ストリゴラクトンなどの植物ホルモンの相互作用、栄養成長時の腋芽形成と二次花序形成の異同などが明らかになることが期待されます。
庄野 邦彦(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-11-07
植物 Q&A 検索
Facebook注目度ランキング
チェックリスト
前に見たQ&A
入会案内