一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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梅の一番花の寿命について

質問者:   一般   雪
登録番号4995   登録日:2021-02-20
庭の梅の木の蕾が色づき始め、咲きそうな花を見ていて思ったのですが、梅の木で一番最初に咲いた花は、他の花が咲き始めて満開になる頃には枯れてしまうのでしょうか。
それとも他の花より寒さに強く、花の寿命が何日かでも長いのでしょうか。
雪様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。今は梅が満開の季節ですね。ただ梅の花の美しさや香りを鑑賞するだけでなく、個々の花の咲く時期/期間にも注目するのは鑑賞の度合いを一歩深めることになりますね。
植物にとって花という器官は子孫を残すための重要な器官で、その目的は種子を作ることにあります。したがって、受粉が終わると花弁は不要になり老化が始まます。たくさん花が付いていても、受粉が済んだ花から枯れて(花弁の老化が始まって)いきます。多くの花では花弁の老化はエチレン(ガス)という植物ホルモンによって促進されます。これらの花は開花後に一定の時間が経過すると、エチレンの合成が顕著になります。また、受粉が行われると、それが刺激となってエチレンの合成が促されます。切り花を長く持たせる方法として、エチレンが組織の中で合成されないようにするエチレン合成阻害剤が実用されています。エチレンの植物組織や器官の老化作用については本コーナーで、「エチレン、老化」の項目で検索してみてください。
受粉が起きなかった花は、受粉した花より長く咲いていますが、ある時期が来るとやはり老化が始まります。つまり、花弁を構成している細胞はあらかじめ遺伝的に細胞死がプログラムされている(プログラム細胞死)と考えられています。言い換えれば、花弁は遺伝的に決められた道筋に沿って老化を起こします。もちろん、植物の種によってその速さや時期は異なります。また、同一植物でもこの過程は温度などの環境条件によっても異なるでしょう。植物の中にはエチレンが花弁の老化に関与していない場合(キク、ユリ、チューリップなど)もあります。これらの花では、花が加齢するにしたがって、老化を促す特定の遺伝子が発現することがわかっています。
ご質問のウメの花の老化過程についての研究は見つかりませんでした。「最初に咲いたウメの花」がいつまで咲いているのかはわかりませんが、もし、いち早く受粉が済んでしまえば、早く枯れるでしょう。受粉の機会がなく、後から咲いた花が早く受粉したら、その花よりも後まで咲いているかもしれません。もちろん、最初に咲いた花の後、気温の低い時期が続いたことにより、後から咲いた花と同じ頃まで枯れないでいるということも考えられます。
一般的に考えて、花の咲いている環境条件が同じであれば花弁のプログラム細胞死はそれぞれの花について一定の期間が経って起きるはずですから、受粉が起きない限り、早く咲いた花は早く枯れることになると思います。なおご質問に関連したことが、登録番号4900にありますのでそちらも合わせて読んでください。
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-03-06
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