一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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ミネラルについて

質問者:   一般   大阪
登録番号5000   登録日:2021-02-24
4999で質問させていただいた者です。

ミネラルによる生育と光合成について調べています
現在の土壌はミネラル不足になっていてその影響で作物の生育が悪くなっていると認識しています。
土壌にミネラル資材を添加、散布すると植物へ十分にミネラルが供給され
野菜の生育や光合成の能力UPに繋がると考えていますがこの認識で間違っていないでしょうか?
そしてミネラル資材による他の影響はありますでしょうか?
大阪 様

この質問コーナーをご利用いただきありがとうございます。ご質問には東京大学の三村徹郎先生から植物栄養全般の視点に立った回答文を頂戴しましたので参考になさってください。

【三村先生からの回答】
植物の生育についてのご質問を有難うございます。
植物が育つには光合成が重要で、その光合成が働くためには空気中の二酸化炭素と、土壌から根によって吸収された水が必要ということは、中学の教科書にもしっかり書かれています。それでは私たちは植物を育てるのに水だけを与えていれば良いかと思い、本当に水ばかり与えていたら枯れてしまったと言っていた学生さんがいました。すなわち、植物が順調に生育するには、光合成に重要な光と二酸化炭素と水の他に、何かが必要ということで、それをミネラルと表現されていらっしゃるのだと思います。
一口にミネラルと言っても、どんなものを指しているのかを考えなければなりません。登録番号3846には、植物が生育に必要とする必須元素が書かれていますが、二酸化炭素と水に含まれる「炭素、水素、酸素」以外の多くの元素「窒素、リン、カリウム、カルシウム、硫黄、マグネシウム、ホウ素、塩素、マンガン、鉄、亜鉛、銅、モリブデン、ニッケル」が、いわゆるミネラルと呼ばれるもので、これらの元素ナシには植物は生育することはできません。
一般の土壌では、このようなミネラルは不足しているのでしょうか。「大阪」さんが普段生活されている環境(道端や空地など)には、沢山の植物が生えていると思いますが、その辺に生えている普通の植物にミネラルを資材(肥料と呼んでも良いと思います)として積極的に与えている人はいません。植物は自分が生育している環境の土壌(あるいは雨に溶けているミネラル)から必要な元素を取り込むことで、ゆっくりとではあっても生育を続けることができます。そういう意味では、土壌はミネラル不足という言葉で呼ぶのは適切では無いように思います。

一方、農業を行う土地では、農作物を大量、かつ少しでも早く生育させて、収穫につなげる必要があります。そこでは、光と二酸化炭素は無尽蔵に供給されますが、それ以外の水とミネラルが大きく不足しがちになります。そのため、不足している水を撒き、ミネラル(元素)を肥料として与えることで、植物の早い生育を支えるということになります。
14種類の必須ミネラル元素のうち、「窒素、リン、カリウム、カルシウム、硫黄、マグネシウム」を多量必須元素と呼び、これらは植物が生育するのに大量に必要とすることから、農業でも大量の肥料として与えることが必要とされています。他の元素は微量必須元素と呼ばれ、多くの場合は通常の土壌に含まれている量で十分に農作物の生育を賄うことができます。
それぞれの元素は、植物の体内で固有の機能を持っており、細胞の成長に必要なものもあれば、光合成の能力の維持に重要な働きをするものもあります。それらは元素それぞれに固有の働きですから、調べてみられるとどの元素(ミネラル)がどのような役割を持っているかが判ると思います。
なお、地球上には非常に特殊な環境で、特定の元素が不足したり、多すぎたりして植物の生育を阻害する土地もあることを付け加えておきます。そういう場所では、植物を生育させるのに、バランスの取れた肥料(ミネラル)を与える必要があります。これと同じことは、農地などで特定のミネラルを与え過ぎた場合にも生じます。

「大阪」さんが言われる、ミネラル資材というものが、もう少し複雑なものを指し、いわゆる「有機肥料」などを意味する場合は、そこには植物の生育を助けるさらに色々なものが含まれる場合もあり得ます。植物栄養学の分野では、上にあげた必須元素がすべての植物に共通に必要とされる元素ということになっていて、それ以外のものを必要とする植物は、特殊なものということになっています。一方で、有機肥料などに含まれる各種のアミノ酸や糖なども、植物の生育を助けることは知られていますが、それらがどのように働くのか、植物の機能のうちどこにどのように効いているのかは、良く判っていません。これらをミネラルと呼ぶのは不適切なように思います。
三村 徹郎(東京大学大学院農学生命科学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2021-03-10
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