一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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稲のランナーにつきまして

質問者:   会社員   sweet
登録番号5094   登録日:2021-05-29
稲の多年草化栽培について農家さんに学んでおります。
栽培技術はともかく、多年草化した稲の一部にランナーのようなものを出すものが現れております。普通の稲と何が違うのでしょうか?
何かしらヒントを頂ければ幸いです。
sweet 様

植物Q&Aのコーナーをご利用いただき、ありがとうございます。
イネの形づくりが専門の佐藤 豊 先生(国立遺伝学研究所)に回答をお願いしたところ、大変詳しい解説を頂きました。

【佐藤先生の回答】
イネの多年生の性質を使って、田植えをしてから2回の収穫を行う農業を学んでおられるのですね。通常イネは年に一回播種・収穫を行うため、一年生植物と思われがちですが、日本で栽培されているイネの多くは多年生の性質を持ちます。刈り取り後の田であらたなシュートが緑の葉を出している様子を見る機会もあるかと思いますし、この性質は日本で栽培されているイネ品種では珍しいことではありません。刈り取り後に出現するシュートをひこばえ(ラトゥーン)と呼びます。東南アジアやアフリカではひこばえ(ラトゥーン)農業(農法)が行われている場所があります。日本国内の稲作慣行では、春に播種し多くの場所では5月までには田植えを行い、多くが9月~10月頃に収穫を行うケースが多いと思います。この場合、収穫後に出現したひこばえ(ラトゥーン)は、すでに気温が低下しているため、多くの場合は非常に限られた収穫になることが予想されますが、日本国内でも高知県など温暖な地域において、早生品種を使ってひこばえ(ラトゥーン)農業(農法)が行われた実績があることを私も耳にしたことがあります。
さて、「多年草化した稲の一部にランナーのようなものを出す」というご質問の本題に入ります。ランナーは日本語では走出枝ということになるかと思います。主茎から分枝し地上部を匍匐するように成長するシュートをランナー(走出枝)もしくはストロン(匍匐枝)と呼びます。イチゴが個体を増やすときにランナー(走出枝)を出すことがあり、見たことがあるかもしれません。一方、栽培イネについては、上記の定義に厳密に当てはまるランナーを形成しているものを見たことはありません。走出枝の定義については、みんなのひろば植物Q&Aの登録番号2874をご参照ください。
一方、一部のイネ品種では、地上部にある茎の節から根(節根という不定根の一種)を形成する場合があります。比較的背の高い品種が節根を形成することがしばしばあります。風などで茎が横に倒れかかったり地面に接したりしていると節から頻繁に根が形成されあたかもランナー(走出枝)のように見えることもあるかもしれません。また、一部のイネ(野生のイネ)においては、どちらかというと芝のように横に広がる性質の強いものもいます。また、野生のイネの中には竹のような地下茎を形成するものもあります。
ご質問の、「多年草化した稲の一部にランナーのようなものを出す」については、まず、本当にランナー(走出枝)であるかをよく確認する必要があります。もし、ひこばえのことを指しているのなら、上述の通り、多年生であることもひこばえを形成することも日本のイネ品種にはかなり一般的な性質です。刈り取り後にある程度の水分と暖かい気温があれば、多くの品種でひこばえが出てきます。また、一部の品種では節根が出てくることもありますので、もしかしたらこの性質からランナー(走出枝)であると思われたのかもしれないと想像します。残念ながら、私には厳密なことはわかりませんが、経験的には日本で頻繁に栽培されるイネ(japonica品種)よりもindica品種もしくはindicaとの交配で育成された品種でしばしば節から根が形成されているものを見かける気がします。
佐藤 豊(国立遺伝学研究所)
JSPP広報委員長
相田 光宏
回答日:2021-06-16
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