一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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ファイトプラズマについて

質問者:   公務員   Wii
登録番号5104   登録日:2021-06-08
ファイトプラズマについて調べてみると、比較的短いペプチド鎖を合成して、植物のホルモンを錯乱させて、葉化病や天狗巣病を引き起こすとのことですが、これらの症状を引き起こすことは、ファイトプラズマにとってどんなメリットがあるのでしょうか。
Wii様

植物Q&Aのコーナーに質問をお寄せ下さりありがとうございます。

ファイトプラズマに感染すると、茎や葉が著しく小型化する(萎縮)、側枝が異常に多数生じる(叢生)、側芽が異常に多く発生し、小さな葉や枝が多数密生する(天狗巣)、萼片、花弁、雄しべ、雌しべなどが葉や茎に置き換わる(葉化)、花弁や萼片が緑色を呈する(緑化)など、植物に共通した特徴的な病徴を呈します。
今までに、これらの症状を起こす因子が2つ明らかにされています。その1つは天狗巣状の症状を引き起こす因子でTENGUと名づけられた12のアミノ酸からなるペプチドです。質問内容にも書かれておられますが、TENGUはオーキシンの生合成、極性輸送、シグナル伝達などオーキシン関連遺伝子群の発現を抑制し、頂芽優勢を解除することで、天狗巣症状を誘導すると考えられています。また、葉化・緑化には、91のアミノ酸からなる分泌タンパク質(ファイロジェン)が働きます。花器官の萼片、花弁、雄しべ、雌しべの分化はA, B, C, Eという4つのクラスの転写因子の組み合わせで決まるという遺伝子モデルがあります(登録番号3475をご覧ください)。ファイロジェンはそのうち、AとEクラスの転写因子を分解することによって葉化・緑化をおこすことが報告されています。
ファイトプラズマは植物から昆虫へ、昆虫から植物へと伝播することで増殖し、また感染領域の拡大を行っています。ヨコバエなどの媒介昆虫は若い組織を好んで師管から吸汁します。したがって若い組織が次々と作られる天狗巣症状は、媒介昆虫が師管に存在するファイトプラズマを吸汁とともに吸い込む機会の増加につながります。それはファイトプラズマにとっては感染を広げるのに役立つことになると考えられています。葉化・緑化も、師部があまり発達しない花器官が葉や茎に変化することによって新たに師部が増え、媒介昆虫による感染の機会が増えると考えられています。また、花になると生長が止まってしまいますが、葉や茎に変わることで緑色組織の形成が続き、媒介昆虫に対するファイトプラズマの供給減が続くのではないかとも考えられています。
ファイトプラズマに感染したリンゴでは、媒介昆虫を誘引する物質が増加することが報告されています。葉化した植物葉の糖濃度が高まることも媒介昆虫を誘引するのに役立っていると考えられています。ファイトプラズマに感染した植物は積極的に媒介昆虫を呼び寄せているように見えます。
ファイトプラズマによる病徴は、媒介昆虫によりファイトプラズマが他の植物に広がっていく機会が増えることによって有利になった形質で、長い進化の過程で確立した生存戦略ではないかと議論されています。
庄野 邦彦(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-06-27
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