一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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ニリンソウの白い花(萼)が緑色になるメカニズム

質問者:   一般   yosishun
登録番号5108   登録日:2021-06-09
ニリンソウの花(萼)通常白色ですが、時により緑色を呈し、しかもその色合いは様々です。これは先祖返りだと言われたりしますが、なぜ先祖返りするのか、また様々な緑になるメカニズムは何か。更に緑になりやすい生息環境はどのようなものですか、教えてください
yosisyunn 様

植物Q&Aのコーナーを利用下さりありがとうございます。
回答は、永年ファイトプラズマについて素晴らしい研究を展開されている研究室の前島健作先生にお願いしました。たいへん丁寧で分かり易い解説をして下さいました。

【前島先生の回答】
「先祖返り」というのは的を射た表現で、花弁などの花器官は葉が転換してできます。実際に、花器官を形作るための転写因子が壊れると、花が葉に「退化」します。(登録番号3044や登録番号3475に詳しく解説されています)では、ニリンソウの緑化にはどんな原因が考えられるのかというと、病気あるいは遺伝的要因のいずれかだと思われます。

私としては、まず病気の可能性を調べることが最初のステップだと考えます。
その理由は、植物の花が緑色になる現象には、ファイトプラズマ(植物病原細菌の一群)の感染が関わっている場合が多いためです。(他の病原体が原因となる場合も少数ながらあります)
ただ残念ながら、ニリンソウの花の緑化についてはファイトプラズマの感染を調べたことがなく、ニリンソウにファイトプラズマが感染するという事例もいまのところ見当たりません。(同属のアネモネやヤブイチゲでは感染例が報告されています)
もし、ファイトプラズマの感染に起因する症状だった場合は、ファイトプラズマが分泌するファイロジェン(phyllogen)というタンパク質が直接の原因となります。ファイロジェンは前述の転写因子を分解することで緑化・葉化(phyllody)を引き起こします。(葉化は緑化の激しくなった症状です。花が緑色になるだけでなく、形態も葉のようになります)

一方で、植物の遺伝的な要因と考えられる場合もあります。「グリーンローズ」と呼ばれるバラの緑化品種では、ファイトプラズマは感染していないものの、前述の転写因子の発現パターンに異常が見られるそうです。
https://doi.org/10.3389/fpls.2016.00996
ご質問のように、生育環境からの刺激により、植物の遺伝子発現が影響を受けることもあり得ると思います。ただ、このあたりは詳しく調べてみないとわかりません。

花の緑化・葉化は昔から私達の目を惹きつけてきたようです。
千年前の中国ではファイトプラズマにより緑化した牡丹が宮廷への貢物として珍重されていたそうで、日本でも最近までファイトプラズマによる葉化病のアジサイが品種として流通していました。グリーンローズも200年以上前から存在する品種です。
今回のニリンソウに関するご質問にも、そういった花の緑化・葉化の魅力が働いているのかなと興味深く思いつつご回答させていただいた次第です。
前島 健作(東京大学大学院農学生命科学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
庄野 邦彦
回答日:2021-07-14
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