一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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常緑広葉樹・針葉樹の紅葉について

質問者:   高校生   n=2
登録番号5321   登録日:2022-01-23
当コーナーで、落葉広葉葉の落葉時の黄葉には、クロロフィルの分解に伴う葉内の資源の回収という一面があると知りました。また、常緑広葉樹や針葉樹でも一斉ではない葉の入れ替わりは起こるとも知りました。
とすると、常緑広葉樹や針葉樹でも落葉前の葉の色が変化する、ということはありますか?もし無いとすれば、それはクロロフィルなどの養分を捨てていることとなりエネルギーや資源の観点で非適応的であるのではないかと思いましたが、何かそのコストを上回るような黄葉しない理由は知られているのでしょうか。
よろしくお願いいたします。
n=2 君

このQ&Aコーナーをご利用いただきありがとうございます。
「常緑広葉樹や針葉樹でも落葉前の葉の色が変化するということはありますか?」との問への答えは「イエス」です。
常緑広葉樹や針葉樹でも葉の老化に伴う落葉があり、その際には常緑広葉樹のクスや針葉樹のメタセコイヤやカラマツなどの例に見られるように褐色や黄金色がかった色に葉が変色することがあります。なお、メタセコイヤやカラマツは秋に一斉に落葉するいわゆる落葉針葉樹に属するので、生理学的な仕組みは落葉広葉樹の場合に似ているものと思われます。

常緑広葉樹のクスの場合には、新葉がたくましく育った初夏の時期に古葉の一部がほぼ一斉の落葉します。野山を歩くとクスに似た落葉パターンを示す樹木に出くわす機会が初夏の季節には多くありますが、マツ・スギ・ヒノキなどの典型的な常緑針葉樹において随時に部分的に起こっているように見受けられる落葉にも何らかの季節要因が関与しているのかも知れません。ところで、春先に芽吹く新芽はアントシアニンなどの色素に富んでいるため鮮やかな色彩を呈しているので「新芽の紅葉」と呼ばれることがあります。これに対して、若葉の成長が終って始まるクスなどの古葉の落葉は幾分くすんで黄褐色(クロロフィルの緑色はほぼ失われている)をしているように見受けられます。

言うまでもなく、エネルギー獲得の機能を担う光合成の能力は個体を構成する全ての葉において一様である筈はなく、常緑樹では葉の成長の段階(経年)に特に大きく依存しており、老化した葉の生産性はふつうは著しく低下しております。一般論としては、葉の寿命には光合成によるエネルギーの獲得(物質生産)と呼吸による消費のバランスが関係しており、差引勘定としてエネルギーが消費されて樹木全体にとって負担となる状態の枝葉においては離層形成などの落葉に向かった過程が進むように代謝系が変換されるものと思われます。季節の変動に同期して全ての葉が入れ替わる落葉樹の場合とは違って、常緑樹の葉のターンオーバーには何年もの時間が必要なようですが、それでも部分的な葉の入れ替えはほぼ毎年確実に起こっているようです。

なお、落葉する葉の色に関しては、マツ・スギ・ヒノキなどの針葉樹の場合には、カエデの紅葉を連想させるような紅色や黄色などの鮮やかな色彩となる場合は少なく、地味な褐色系の色を呈する場合が多いように見受けられます。ただし、この色合いの違いが植物体への直接的な資源の回収の過程とどのように関係しているかについてはまだ十分には解明されていないように思います。

本コーナーには紅葉や落葉に関する多数のQ&Aが掲載されていますので、それらも参考になさってください。
佐藤 公行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2022-02-11
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