一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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じゃがいもはなぜ丸い

質問者:   自営業   てる
登録番号5470   登録日:2022-09-15
夕食の時に子供に一口じゃがいもを出したら、じゃがいもはなぜ丸いのかと聞かれました。それまで、ポテトのように細長く切って出すことが多かったので、驚いたようです。
ヒトが食用にする植物は丸いものが多い理由を調べると、種が少ない果実は種子を守るために球形になることが効率的であることがわかりました。
また、じゃがいもは茎の部分を食べている、さつまいもは根の部分を食べているということもわかりました。
種子を含まない部分のじゃがいもが丸い形になるのはなぜでしょうか。茎であれば、細長く成長するのが自然なのではないかと思いました。
教えていただければ幸いです。よろしくお願いします。
てる様

 こんにちは。日本植物生理学会の植物Q&Aコーナーに寄せられたあなたのご質問「じゃがいもはなぜ丸い」にお答えします。

 果実の場合は、雌しべの基部の子房の中で種子ができると、種子が生長を促進する植物ホルモンであるオーキシンを作り、これが周囲の組織を生長させて子房が大きくなって果実となります。種子の数が少ないリンゴなどでは、種子からのオーキシンは一か所から等方向的に拡がっていくので果実は球形になります。一方、キュウリのような長い子房の中でたくさんの種子が縦方向に並んでいる場合は、長い果実になります。受粉が不完全なときなどは、リンゴはいびつになり、キュウリは先細りしたり曲がったりしますが、これは、一部の種子形成が不十分なためにオーキシンの分布が不均一になるためです。
 茎や根が肥大して食用となるものでは、勿論種子が無いのでこのような説明は成り立ちません。果実とは異なるしくみでジャガイモのような塊茎やサツマイモのような塊根が形成されます。
 ジャガイモでは茎の基部近くから匍匐枝またはストロンと呼ぶ地下茎が発生します。通常の茎が先端にある分裂組織で細胞分裂をして伸びてゆくのと同じように、ストロンの先端にも分裂組織があり、ここで盛んに細胞分裂を行って伸長します。やがて環境条件が整うとストロンの先端は伸長を停止し、細胞分裂で作られた多くの細胞は肥大して、地上部から送り込まれた光合成産物がでんぷんとなって蓄えられて大きくなります。肥大が先端部で起こることから、結果として丸い形の塊茎が形成されます。
 塊茎形成が始まる主な環境条件は短日条件で、短日条件になると葉で塊茎形成を誘導する物質が作られ、これがストロンに送られて先端の肥大が始まります。塊茎形成誘導物質は植物ホルモンの一種であるジャスモン酸類とされ、また、花成を決定づける因子であるフロリゲンが花芽分化だけでなく塊茎形成をも決定づけるとされています。塊茎形成物質は細胞の伸長方向に影響するもので、長軸方向への伸長を止めて放射方向への肥大を促進すると思われます。この結果、ストロン先端は球形になります。細胞の伸長方向の制御は微小管の配列によりますが、このことについては本質問コーナーの登録番号3893, 5439などをご覧ください。
 レンコンも地下茎が肥大したものですが、これは球形ではなく長く太くなります。ジャガイモとはまた異なるしくみが働いているからです(登録番号3893をご覧ください)。形の制御には、多くの場合、植物ホルモンが関与しており、植物ホルモンは遺伝子の発現を制御することによって作用します。どの植物ホルモンやどの遺伝子が関与するかは様々で、さらに、同じ植物ホルモンや遺伝子が関与していても、それが働く時期や部位などは植物の種により、現象により様々です。その結果、様々な形が形づくられます。
竹能 清俊(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2022-09-22
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