一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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植物におけるTCAサイクル

質問者:   教員   hammar
登録番号5512   登録日:2022-11-19
いつもお世話になっております。
検索はかけましたが、もし同様の質問が過去にありましたらご容赦ください。

TCAサイクルについて調べたところ、「植物や原核生物ではスクシニルCoAからコハク酸へ変化する過程で1分子のATPが合成されるが、動物の場合はATPではなくGTPが合成される」となっていました。これについて以下の点が疑問です。

①図によっては、ATPを合成する際に一度GTPを挟んでいるものがあります。
これは、『どの生物もGDP→GTPを行い、さらに植物や原核生物はGTPからリン酸を転移させてADP→ATPを行っているが、動物はそれをしない』という解釈でいいのでしょうか?

この反応を触媒するコハク酸CoAリガーゼについて調べると、反応式が『GTP +コハク酸+ CoA ⇌ GDP +リン酸+スクシニル-CoA』となっていたので、このように解釈しましたが、あまり自信がありません。調べた限りでは、植物や原核生物の場合はATPを用いるコハク酸CoAリガーゼを利用している可能性を否定できませんでした…。

②いずれにしても、動物がクエン酸回路でATPではなくGTP生成しているのには、その方が何かしらのメリットがあるからなのでしょうか?

進化の順番から考えると、好気性細菌は全てクエン酸回路でATPを合成していたが、好気性細菌が共生してミトコンドリアに変化した後で、動物に繋がる細胞はATPから生成する物質をGTPに切り替え、植物に繋がる細胞はそれを行わなかったように思えます。これは動物にとって、何かメリットがあったのでしょうか。それとも単に偶然そうなったものの、特に生存の上で問題が無いため淘汰されなかったのでしょうか。

長々と申し訳ありません。素人質問ですが、よろしくお願いいたします。
hammar 様

みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。
質問を歓迎します。

植物のスクシニルCoAリガーゼはミトコンドリアに局在するクエン酸サイクルの酵素で、次のようにADP/ATPが関与する下記の反応を触媒します:
スクシニルCoA + ADP + リン酸(Pi) ≒ コハク酸 + ATP + CoA
長い間、他の生物でも同様な反応が行われていると思われていましたが、1990年代後半に、動物では、反応にATP/ADPを使う酵素の他に、GTP/GDPを使うものの両方があることが分かりました。植物や多くの原核生物ではATP/ADP依存型の酵素だけが働いていると考えられています。それに対し、動物ミトコンドリアではATP/ADP 型のほかにGTP/GDP 型もあり、2種類の酵素が働いていることになります。
この酵素はαβの2種類のサブユニットからなり、動物では二種類の酵素を持ち、αサブユニットは共通だが、βサブユニットだけが異なります。2種類の酵素はきわめて類似した反応を触媒しますが、βサブユニットにより、ATP/ADP型かGTP/GDP 型かが決まります。動物細胞ミトコンドリアでは、各種の臓器/組織についてどちらの型がどのように発現しているかを手掛かりに研究が進行中で、ハトの腎臓ではGTP/GDP依存型が多く、心臓ではATP/ADP依存型が多いという報告があります。GTPは、ミトコンドリアの融合、分裂、輸送に必要だと考えられていますが、2種類の酵素が存在することの詳しい意義については、まだ研究が進行中の段階だと思われます。
植物では、ATP/ADP依存型だけです。
櫻井 英博(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2022-12-22
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