一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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抑制遺伝子と被覆遺伝子

質問者:   その他   加藤 祐太郎
登録番号0554   登録日:2006-03-07
抑制遺伝子と被覆遺伝子の違いについて詳しくおしえてください。
加藤祐太郎様

現役の研究者でも正確に答えられないひとが多いのではないかという質問ですが、国立遺伝学研究所の倉田のり先生が詳しく回答してくださいました。 ある現象を引き起こす仕組みを明らかにするときに、その現象に関わる最初の変異遺伝子とその抑圧変異遺伝子を見つけて研究することは、現在でも大変重要なアプローチです。よく読んでみて下さい。


回答:
 抑制遺伝子とは、通常抑圧遺伝子と呼ばれるものです。特定の突然変異の形質(花が八重になった、通常は直立の葉が垂れてしまった、というような)が、他のもう一つの突然変異が起こることによって、もとの形質(花が一重とか、葉が直立に)に復帰してしまうことを、最初の突然変異が抑圧されたといい、これを引き起こした第2の突然変異遺伝子を抑圧遺伝子といいます。抑圧遺伝子をみつける実験は、遺伝学の実験ではよく行われます。ある特定の形質を表現するための、生化学的な反応経路は、かなりの反応系に置いて唯一無二の経路があるわけではなく、枝分かれしたバイパスがある場合が多く、メインの経路が断ち切られて八重や垂れ葉が発生しても、バイパスの経路上の遺伝子がさらに変化することによって、もとの形質に戻る現象がしばしば見られます。よって、このような抑圧遺伝子を探すことは、第2の生化学的反応経路の存在とその経路上の役者(遺伝子->タンパク)を知る上でも重要な事なのです。
 それに比べ、被覆遺伝子とは、ひとつの遺伝子の働きによって、他の遺伝子による形質や作用が覆い隠されるとき、覆い隠す遺伝子の方を被覆遺伝子と呼びます。最も単純な例は、父親と母親由来の遺伝子が、それぞれ黄色い花(r)と赤い花(R)を作る遺伝子を持っていた場合、Rを持つ赤い色素の方が優性で子供の花の色(rR)は赤くなります。しかし、もう一つ別の黄色い色素を作る遺伝子Yが同時に(この場合父親から)子供に伝わったような場合は、(父由来Yと母由来yのうち)Y遺伝子の働きで、赤い色が覆い隠され黄色になると言うわけです。

 よって、被覆遺伝子が抑圧遺伝子である場合もあり得るわけで、見つかった経緯や、現象によって呼称が付けられています。しかし、被覆遺伝子という呼び方は現在ではほとんど用いられません。このような例は、この遺伝子の呼び方に限らず、歴史的にたくさん残されていて、時にかえって混乱を招くこともあります。現在のように分子的なメカニズムがわかってくると、無用な呼称や変えるべき呼称もたくさん見られます。

 倉田 のり(国立遺伝学研究所系統生物研究センター植物遺伝研究室)
植物生理学会広報委員長、京都大学
 河内 孝之
回答日:2006-03-28
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