一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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野菜や果物の水分

質問者:   一般   BBBS
登録番号5607   登録日:2023-04-15
ジューシーな果物やみずみずしい野菜を、毎日美味しく食べています。
人が雨水を濾過しないで飲めば、お腹を壊してしまいます。
でも、雨水を吸い上げた植物の野菜や果物を食べても、お腹を壊したりしません。
野菜や果物の液胞に貯えられている水は、どのように濾過されているのでしょうか?
BBBS 様

この質問コーナーをご利用いただきありがとうございます。
「雨水」と「野菜や果物に貯えられている水=植物の細胞内に取り込まれている水」の違いを理解する上で鍵となるのは細胞膜の「選択透過性」です。

地上の水は蒸発して水蒸気になりますが、この状態では水の分子は大気中に分散して存在しています。しかし、条件によっては気体の水分子は水に親和性の高いアエロゾル(大気中の微粒子)を核に集合して水滴となり、重力に従って地上に落下する事態に至ります。水蒸気から生ずる純粋な水は飲んでも問題ない筈ですが、水滴となった状態では先ずは核となっている不純物を含んでおり、また、移動する間に空中に浮遊しているいろいろな物質(最近の話題から拾うと、海塩・PM2.5・黄砂など・・・・)を取り込むため、雨水は時として飲料には適さないものになっています。

さて、雨水で育つ植物は主に根から水分を吸収しますが、植物体を構成する細胞は脂質で作られた細胞膜(脂質二重膜=内外の表層が水に親和性が高い特性を持つ脂質膜)のバリアーで囲まれているため、外部からの物質の取り込みには大きな制約がかかります。細胞膜の基本的な役割は物質を通さない(細胞内部の環境を安定に保つ)ことにありますが、他方では必要に応じて選択的に物質を透過させる能力を備えています(選択透過性)。物質透過の機能を担う装置は膜上に配置されているタンパク質分子で、膜を貫通するタンパク質が濃度勾配に従った拡散の通路(チャネル)や、濃度勾配に逆らった(エネルギーの注入を必要とする)輸送(能動輸送)の通路(ポンプ)となっていて、膜を介した選択的な物質透過を可能にしています。このような仕組みにより、細胞の主成分である水の場合にはアクアポリンと呼ばれる通路タンパク質などを介して比較的自由に細胞膜を通過できますが、雨水に溶け込んでいるイオンや他の物質に関しては栄養素としての必要性の程度などに応じて細胞への取り込みが調節されることになります。この質問コーナーには、例えば登録番号3651や登録番号4936など、関連するQ&Aが数多く掲載されていますのでご参照ください。

なお、果物や野菜など食用植物として開発された植物のジュースは安全ですが、有毒な成分を含む植物もあるのでご注意下さい。
佐藤 公行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2023-04-19
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