細胞が2つの娘細胞に分裂するためには、細胞周期が1回転しなければなりません。この回転を制御する因子はサイクリン依存性キナーゼ (CDK) と呼ばれています。CDKはその名の通りサイクリンがないと機能しませんが、その機能を100%発揮するためにはそれ自身がリン酸化による修飾を受けなければなりません。このリン酸化反応を触媒するのがCDK活性化キナーゼ (CAK) です。最近 Umeda らの研究により、植物にはCDKDとCDKFと呼ばれる2種類のCAKが存在することがわかりました。中でもCDKFは植物にしかない因子で、CDKをリン酸化するだけでなく、同じCAKであるCDKDをリン酸化し活性化する機能ももっていることが明らかになりました。したがって、植物には CDKF → CDKD → CDK というリン酸化カスケードが存在しています。
植物は動物と同様に複数のCDKをもっています。したがって、細胞内のCDK活性を人為的に操作するためには、上流で機能するCAKの発現量を変化させることが有効な手段となります。そこで Umeda らは、 シロイヌナズナのCDKF遺伝子を利用して細胞内のCDK活性を徐々に低下させる実験を試みました。すると、根冠 (根の先端の組織) を作り出す始原細胞が分化して、デンプン粒 (紫色に染まっている顆粒) を蓄積することが明らかになりました。また、通常デンプン粒を蓄積しない皮層細胞でもデンプン粒が見られたことから、細胞の分化状態がひどく乱されていることがわかりました。これらの結果は、CDK活性が細胞分裂と分化のバランスを取る、中心的な要因になっていることを示唆しています。現在著者らは、CDK活性を制御する様々な因子の機能解析を通して、遺伝的なプログラムや植物ホルモンがどのように細胞分裂と分化を協調的にコントロールしているかについて調べています。
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