植物細胞も動物細胞のように分裂によって数を増やしますが、分裂の仕組み、特に、染色体の分配の後、細胞質が二つの娘細胞に分かれる仕組みはかなり異なります。植物細胞の細胞質分裂装置であるフラグモプラスト (隔膜形成体) は、分裂後期の終わり頃、両極に分離した娘染色体の間に、微小管がシリンダー状に集まった構造体として出現します。微小管に沿ってゴルジ体由来の小胞がフラグモプラストの赤道面に集まり、そこから遠心的に、カロース合成を伴う細胞板形成が始まります。細胞板形成の進行に伴い、中央の微小管が消失して、フラグモプラストは細胞板の縁を取り囲むドーナツ状の構造体になります。その後、細胞板がドーナツの輪を拡げるように遠心的に発達し、最終的に親細胞の細胞壁に達すると、フラグモプラストは消失します。このような特徴的な形態変化は、フラグモプラスト中央あるいは内側での微小管の脱重合と、その外側での微小管の新たな重合の繰り返しによって起こると考えられてきましたが、それらを制御する仕組みは解明されていません。
Yasuhara は、細胞周期を同調化させることのできるタバコの培養細胞を用いて、カフェインをさまざまな時期に与える実験を行い、細胞板におけるカロース合成が完全に止まると、フラグモプラスト中央での微小管の脱重合が阻害されることを見いだしました。すなわち、フラグモプラスト微小管の脱重合には、細胞板におけるカロース合成が深く関わっていることが明らかになりました。表紙写真は、タバコの培養細胞から単離したフラグモプラストの、微小管 (赤)、染色体 (青)、細胞板 (黄白色) をそれぞれ蛍光染色し、それらの像を重ね合わせた三重染色像です。上は正常細胞のフラグモプラストを横から見た像、下の二つはカフェイン処理した細胞のフラグモプラストで、左は横から、右は上から見た像です。細胞板が染色されず、中央に微小管が残っていることがわかります。
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