田中久重 (1799-1880) (東芝の創始者) は日本の生んだ類い稀な発明家である。彼は万年時計 (正式には萬年自鳴鐘) を考案創作した。高さ約 60cm 、重さ 38Kg からなるこの時計には6種類の異なる表示面 (機能) がある (表紙の写真参照)。(1) 西洋式の時計、(2) 月の運行と満ち欠け、(3) 旧暦の十千十二支式カレンダー、(4) 立春・夏至ななど二十四節気、(5) 曜日、などの日々月々の変化を表示するだけでなく、(6) 日本独自の計時方法である和時計 (刻) をも表示する (ひまわりの中心を参照)。刻では、九 (ここのつ) から四 (よつ) まで昼夜を各6等分して表する。和時計では季節を問わず日が昇れば ZT=0 であり、日が沈めば ZT=12 と設定する (生物時計に似ている)。従って、一刻 (約2時間) の長さは、昼と夜、夏と冬では大きく異なっており、ある意味で人の営みや自然の理にかなっている。久重のこの自動時計は更に巧妙であり、季節による時間の伸縮に対応して文字盤が動く (entrainment される) カラクリが施されている。さらに、この精巧に創られた時計を動かすには年に一度螺子を巻くだけで十分である (http://www.toshiba.co.jp 参照)。
さて、このような時計は人類の叡智の所産であるが、植物もそれに勝るとも劣らぬ生物時計を進化の過程で獲得した。久重がまさに日本に於いて万年時計を工夫しているその時に (1851)、ダーウィンは植物時計の存在の進化的理解に苦しんでいた (1809-1892)。それ以来、万年時計のカラクリ、そして生物時計の仕組み、ともに久しく議論の的になってきた。シロイヌナズナを用いた最近の研究は植物時計分子機構の理解に大きな進展をもたらした。本号では、シロイヌナズナの重要な時計因子と考えられる PRR因子 (5種類の擬似レスポンスレギュレーター) に焦点を当てたミニレビュー・論文が掲載されている。久重の万年時計のカラクリも最近ようやく明らかにされたので、興味のある方は国立科学博物館を訪問していただくか (http://www.kahaku.go.jp)、愛地球博2005を訪れていだだきたい (http://www-1.expo2005.or.jp/en/index.html)。
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