植物の葉や花の発生 （形作り） は分裂組織 （メリステム） と呼ばれる特別な部位で行われている。そのため、分裂組織の維持メカニズムの解明は、植物発生学の中でも中心課題の一つである。シロイヌナズナでは包括的な理解が進んでおり、CLAVATA シグナル伝達系が重要な役割を果たすことが明らかになっている （幹細胞の増殖を抑える働きをする）。しかし、他の植物では分裂組織の維持機構はほとんどわかっていない。
　寿崎らはイネの分裂組織維持に関する研究を行なっており、花分裂組織が肥大する変異の原因となる遺伝子 FLORAL ORGAN NUMBER 2 (FON2) を単離した。そして、この遺伝子が CLE ドメインをもつ小さな分泌性のタンパク質をコードしていることや分裂組織が大きくなりすぎないように幹細胞の増殖を抑えていることを明らかにした。このように、単子葉植物のイネにおいても、シロイヌナズナ （双子葉植物） と同様に CLAVATA シグナル伝達系が保存されていることが判明した。その一方で著者たちは、イネでは茎頂、花序および花分裂組織という３種の分裂組織がそれぞれ異なる様式で遺伝的制御をうけているという、シロイヌナズナに無い独自の制御機構モデルの存在も提案した。
　イネに FON2 遺伝子を過剰発現させると、幹細胞の増殖が抑えられるため、花の器官（雌しべや雄しべなど）の数が減少する。通常の花 （左） と比較してそれぞれ、中程度（真中）、あるいは強く （右） 増殖が抑えられた花である。真ん中の花では雌しべはなく、雄しべが１本だけに減少している。右の花では、外頴や内頴さえ形成されていない。