シダの一種、ホウライシダ (Adiantum capillus-veneris ) の気孔です。赤色光により開口しています。気孔は一対の孔辺細胞から出来ていますが、それを蛍光色素 fluorescein diacetate で染色し、明視野像と蛍光像を重ねた写真を示しています。ホウライシダは進化的には新しく発生した薄嚢シダの一種で、気孔は葉の裏面にのみ見られ、孔辺細胞は成熟すると長軸が 30μm くらいまでおおきくなります。シダ植物の孔辺細胞は多数の大きな葉緑体を含んでいるのが特徴で、多くのものが光強度が弱い林床に生息しています。従って、シダ植物の気孔は種子植物とは異なった光応答をすることが予測されました。
種子植物では光合成 (赤色光反応) と青色光受容体フォトトロピン (青色光反応) に依存した2種類の気孔開口メカニズムが知られています。青色光反応は弱い強さの光で有効で、フォトトロピンによって吸収された光シグナルが刺激となって形成された電気化学的ポテンシャルに駆動されて、カリウムイオンが取り込まれます。それに伴って、孔辺細胞に水が取り込まれ、体積の増大が起こり気孔が開きます。
しかし、Doi らの研究により、ホウライシダでは、孔辺細胞に機能的なフォトトロピンと H+ -ATPase の存在するにもかかわらず、青色光に依存した気孔開口は見られないことが明らかになりました。おそらく、ホウライシダではフォトトロピンと H+ -ATPase を繋ぐ情報伝達経路が種子植物と異なり未発達か欠失しているのでしょう。しかし、赤色光によってはホウライシダの気孔は良く開きますので、現在、その機構の研究が進められています。
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