ダイコン、ワサビ、カラシなどのアブラナ科植物では、カラシ油配糖体 (グルコシノレート) の糖がβ-グルコシダーゼの一種であるミロシナーゼという酵素で切断されることによって、辛味成分が生成される。ミロシナーゼは、ミロシン細胞と呼ばれる異型細胞の液胞に大量に蓄積されており、細胞が破壊された時に刺激性物質の辛味成分を生成することで、植物の生体防御に関与しているものと考えられる。
Ueda らは、タンパク質に結合するクマシーブリリアントブルー (CBB) という色素で葉を染色し、ミロシン細胞を検出する方法を考案した。表紙写真は、エゾノジャニンジン (アブラナ科タネツケバナ属) の葉におけるミロシン細胞の CBB 染色像である。周囲の細胞 (淡い紫色) と比較して、濃い紫色に染色されたミロシン細胞は顕著に大きく、形状も異なっており、維管束に沿って分布している様子が観察される。表紙挿入写真は、シロイヌナズナ葉のミロシン細胞の電子顕微鏡像である。ミロシン細胞の液胞は電子密度の高い物質で均一に満たされており、周辺細胞と異なる。このようなミロシン細胞はアブラナ科植物特有のものであり、現在のところ分化発達メカニズムは全く未知である。
さらに Ueda らは、酵母では膜融合タンパク質として知られている VAM3 のシロイヌナズナにおける相似タンパクである AtVAM3 の変異体を用いて研究を進めた。変異体ではミロシン細胞の数と分布が異常になり、維管束周辺部だけでなく葉全体にわたってミロシン細胞が連続的なネットワークを形成して存在し、数が顕著に増大していた。このことから、AtVAM3 がミロシン細胞の分化に関与することが示唆された。
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