ヒロハノマンテマは、ナデシコ科の雌雄異株植物で、雌雄性に関するモデル植物の一つです。左下は、蕾の萼と花びらの一部を取り除いた、雄花 (♀) の走査電子顕微鏡 (SEM) 像で、雄蕊 (♂) の花糸と葯は黄色、雌蕊 (♀) は赤に着色してあります。雄花 (♂) には、よく発達した雄蕊 (♂) と抑制されて細い棒のようになった雌蕊 (♀) があるのがわかります。
今回、河野らは、ヒロハノマンテマの無性花突然変異体K034を単離しました。この変異体には、2つのタイプの花がつきます。90%が無性花で、発達した雄蕊 (♂) も雌蕊 (♀) もなく、完全に抑制され棒のようになった雌蕊 (♀) があるだけでした (右下のSEM像)。残り10%は雌様花で、抑制が不完全で未発達な雌蕊 (♀) が見られます。
植物においても、雌雄の別がXY型の性染色体で決まる場合があって、ヒロハノマンテマの雌株 (♀) はXX、雄株 (♂) はXYになります。左上は、雄株 (♂) の染色体像で、X染色体とY染色体が見えます。染色体末端のサテライトDNAをプローブにした蛍光 in situ ハイブリダイゼーション (FISH) を施しているので、X染色体は両末端に、Y染色体は片末端にシグナル (緑色の蛍光のツインスポット) が見えます。Y染色体上には 「雌蕊 (♀) 抑制領域」 と 「雄蕊 (♂) 促進領域」 があり、Y染色体によって雌蕊 (♀) が抑制され、雄蕊 (♂) の発達が促進されると雄花 (♂) になります。
ところが、無性花突然変異体K034には、性染色体が3本あって (右上の染色体像)、2本はX染色体で、1本は欠損部分をもつY染色体でした (Ydと表示)。Y染色体の片末端にあったツインスポットがなくなっているのがわかります。Y染色体特異的STSマーカーによる解析から、K034のY染色体は 「雌蕊 (♀) 抑制領域」 の一部と 「雄蕊 (♂) 促進領域」 の一部を両方とも欠損していることがわかりました。これで一つの突然変異体に2つのタイプの花があるというK034のエピジェネティックな変異の理由の一端が明らかになりました。
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