低温は農作物に深刻な被害を与え、冷害をもたらします。イネは温帯地方の重要な穀物の一つですが、花が形成される時期に低温にさらされると、花粉が発育不全となって収量が落ちます。 葯の中で花粉の発育に重要な役割を果たすタペート細胞で働く、糖を代謝する酵素や糖を運ぶ酵素の量が低温によって少なくなってしまい、花粉に充分な量の糖が送られなくなることが原因の一つと考えられています。
Oliver らは、低温感受性のイネと低温耐性のイネ (表紙写真:中国雲南省原産) とを用いて、低温が及ぼす作用に、植物のストレスホルモンと呼ばれるアブシシン酸が関わっていることを明らかにしました。低温感受性のイネでは、低温処理によってアブシシン酸のレベルが上がり、タペート細胞で働く、糖を代謝する酵素や糖を運ぶ酵素の遺伝子発現が抑制されました。これに対して低温耐性のイネでは、アブシシン酸のレベルが低く、低温処理によっても大きな上昇は起こりませんでした。この違いが、アブシシン酸の生合成および分解に働くそれぞれの酵素のバランスの違いによってもたらされることも示唆されました。将来、品種改良によって、低温にさらされても収量の落ちないイネを造ることができるかもしれません。
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