植物の細胞の中には、核、葉緑体、ミトコンドリア、ゴルジ体、液胞、ペロオキシゾーム、小胞体など細胞小器官があります。役割が異なる細胞がそれぞれの機能を効率的に行うためには、細胞小器官が細胞内で規則ただしく配置されていなければなりません。しかし、どのような統制のもとで、どのような機構によって、細胞小器官がそれぞれの持ち場に配置されるのかは、あまり良くはわかっていません。
細胞小器官の中でも葉緑体は、光条件に従って細胞内を移動することが19世紀から知られています。弱い光の条件下では、光を効率的に吸収して光合成活性をあげるために細胞の上面に集まり、強すぎる光条件の下では、葉緑体が破壊されるのを避けるために、細胞の側面に移動します。この光定位運動には一般にフォトトロピンという青色光を吸収する光受容体が働いていますが、シダ植物では赤色光も有効で、その光受容体は赤色光吸収色素のフィトクロムと青色光吸収色素のフォトトロピンが融合したネオクロムです。
Kagawa and Wada は1993年と1995年に、シダ植物の前葉体では核が光条件に依存して細胞内を移動することを報告しましたが、今回さらに、ネオクロムの突然変異体、フォトトロピン2の突然変異体、さらに両方の光受容体が欠損した二重変異体を使って、核の光定位にかかわる光受容体が葉緑体運動と同様に、青色光はフォトトロピン、赤色光はネオクロムであることを明らかにしました。さらに、暗黒下で核は細胞の側面に移動しますが、それにはフォトトロピン2が関与していることもわかりました。
表紙の写真は、ホウライシダの前葉体の一部で、真ん中から左側に強い光を、右側には弱い光を照射し、核を細胞同士の間 (側面)、または表面に定位させたものです。白い点状の核は 4',6'-diamidino-2-phenylindole (DAPI) による染色、赤い部分は葉緑体の自家蛍光です。
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