サイトカラシンは微生物の代謝物で、細胞質分裂の阻害剤として知られている有機分子です。この化合物は、アクチンの重合を阻害することから、これに基づく生体プロセスの研究、たとえば細胞運動の研究に広く用いられています。これまで非常に多くのサイトカラシン類縁体が同定されており、それらは共通の生物活性をもちますが、その効果の違いの詳細についてはよくわかっていませんでした。
Foissner と Wasteneys は、車軸藻類 Nitella pseudoflabellata の 巨大節間細胞を用いて、様々な種類のサイトカラシンの細胞運動性への影響を調べました。サイトカラシン D と H は、皮質下のアクチンフィラメント束を損傷させずに流動を停止させ、その上1日から数日間の処理後にフィラメント束を分解させることがわかりました。このことから、サイトカラシン D と H がアクチンに基づく運動性への迅速かつ可逆的な阻害実験に最も適していることがわかりました。
写真は様々な濃度と時間でサイトカラシン処理を施したアクチンの顕微鏡像です。サイトカラシンの種類や処理濃度・時間の違いにより、皮質のアクチンフィラメントは、太いフィラメントが無秩序に配向した大きな集団状 (写真左上)、短鎖フィラメント状 (写真左中)、散らばった短いロッド状 (写真右中) のアクチンなどへ再編成されました。一方、アクチンの脱重合薬であるラトランクリン A と B は、皮質下アクチン束を崩壊させた後でのみ流動を止めましたが、それは比較的高い濃度で一日以上の処理期間を必要とし、その作用はサイトカラシンと相乗的でした。サイトカラシンの細胞運動性阻害への作用メカニズムに新しい知見を与えた研究です。
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