イネは日本人にとってとても大切な作物で、秋には黄金色に輝く稲穂を日本各地で見ることができます。我々が食べているお米はそのイネの種 (種子) であり、実るまでには他の植物同様、花が咲いて種子ができます。表紙はイネの花の写真ですが、飛び出ている黄色い部分が葯と呼ばれるところで、その中には花粉が詰まっています。雌しべは花の根元にあって見えません。種子を作るためには、花粉と雌しべが正常に発達・成熟し受粉・受精することが必要ですが、その中でも花粉の形成・成熟は花粉自身と葯の一番内側の細胞層 (タペート細胞) の間の協調から成り立っており、とても精巧なメカニズムによって制御されています。
今回の特集号では、花粉の発達を様々な側面から総合的に理解することを目標に、レーザーマイクロダイセクションとマイクロアレイという2つの最新鋭のテクノロジーを用いて、花粉とタペート細胞での遺伝子発現解析を行いました。レーザーマイクロダイセクションは、レーザーを用いることによって生物の特定の細胞・器官だけを単離することができる装置で、葯の中の花粉とタペート細胞を別々に単離することができます。それら単離した細胞からそれぞれRNAを抽出し、マイクロアレイ解析によって44,000個の遺伝子のどれが花粉とタペート細胞で発現・機能しているかを調査しました。諏訪部らと保浦らの論文では、花粉ができあがるまでの発育ステージで遺伝子発現解析を行い、花粉・タペート細胞のどの発育時期にどの遺伝子が機能しているかを明らかにしました。また、平野らと三原らの論文では、この情報を用いて葯における植物ホルモンの生成・情報伝達過程がどのように制御されているかを解明し、また、この膨大なデータを利用することで、花粉での遺伝子発現制御因子の新たな同定法を開発しました。今回のレーザーマイクロダイセクションとマイクロアレイより得られたデータは、イネにおける花粉が成熟し、機能するまでを分子レベルで理解するために様々な研究の基盤になります。さらには、他の植物、作物への応用も期待され、今後の発展が楽しみです。
なお、この様に、種子ができる過程において、受粉・受精と言うことは重要な側面です。この様な点から、今月号では、「植物の生殖」 という特集号として編集し、合計7報の論文を掲載してありますので、あわせてご覧ください。いずれの論文もdownload freeとなっておりますので。
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