「ジャポニカイネはどのように 「栽培化」 されたのか?」
日本人の主食であるお米を作るイネという植物は、約1万年前に、自生していた野生イネから、古代人による作物として望ましい形質に関する選抜が繰り返されてできた新しい種 (Oryza sativa) です。この過程を栽培化と呼びます。そして、この栽培化に貢献した、変異した一群の遺伝子を栽培化遺伝子と呼んでいます。中でも、コシヒカリなどの日本の稲の多くはジャポニカと呼ばれる亜種に属しています。本号の小西らの論文 (1283-1293ページ) では、5つの栽培化関連遺伝子 (コメ粒の幅を決めるqSW5遺伝子、玄米の表面 (種皮) の色を決めるRc遺伝子等を含む) の、栽培化の時に選ばれたと考えられる6つのDNA変異の有無、そして進化的に中立と考えられるDNA多型マーカーを用いて調査したゲノムワイドなDNAの多様性のパターンを約90系統のいろいろな原産地のジャポニカ (在来種と一部近代品種を含む) で比較調査しました。
表紙の図は、古いアジアの地図と解析に用いたジャポニカイネの籾と玄米の写真を、解析した5つの栽培化遺伝子のDNA変化をイネの原産地にあわせて載せています。今回の解析の結果、5つの栽培化遺伝子がすべて機能型 (オリジナルで、選抜を受ける前のDNA型) の品種は、東南アジア、特にインドネシア・フィリピン原産でした。また、1つだけが変化した品種も、東南アジア原産でした。そして、栽培化遺伝子のDNA変化が徐々に蓄積していくにつれて、その遺伝子型の品種が中国や日本に広がっていく様子が見えてきました。これらの結果は、ジャポニカの原産地が、東南アジアであることを非常に強く示唆しています。これまでの考古学からの知見では、ジャポニカの起源は、中国の長江付近との説が有力です。今後の解析で、イネの栽培化過程がさらに明らかになっていくことを期待しています。また、ダーウィンが予見したように、作物の栽培化研究が生き物の進化研究のモデルケースとして、発展していく可能性も楽しみな予想です。
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