「タマネギの炭水化物蓄積」
タマネギ (写真中央) は世界中で栽培されている非常に重要なネギ属野菜です。タマネギは、肥大した球 (りん茎) の中にフルクタンという糖をデンプンの代わりに蓄え、その蓄積量はタマネギの品質に大きく影響します。これまでの研究から、タマネギの第8染色体の一部に、フルクタンの蓄積量を左右する遺伝子領域があることが分かっています。タマネギは第1染色体から第8染色体までの8本の染色体を2セット(計16本)もつ植物ですが、第8染色体以外の染色体にはフルクタンの蓄積に関係する遺伝子は存在しないのでしょうか。
そこで、タマネギの第1から第8までの8本の染色体を1本ずつネギに添加した8種類のネギ系統 (以下 「添加系統」 と略記) を用いて、フルクタン蓄積に関係する遺伝子のタマネギ染色体上での所在を明らかにする試みがなされました。8種類の添加系統 (写真下部:写真左より対照区のネギ、第1染色体添加型から第8染色体添加型) は、添加されたタマネギ染色体上の遺伝子の影響をうけて、形態や内容成分が大きく変化しました。フルクタンの蓄積量は、第8染色体添加型だけでなく、第4・第6染色体添加型でも増加することが認められ、それらに対応するタマネギ染色体上にもフルクタン蓄積に関係する遺伝子が存在することが示されました。一方で、第2染色体添加型はフルクタンを蓄積せず、フルクタンの蓄積を阻害する遺伝子が第2染色体に存在しているようでした。
実際にフルクタンの生合成に係わる酵素遺伝子の所在を調べたところ、第8染色体にはフルクタンの合成材料であるスクロースを合成するSPS (スクロースリン酸合成酵素) という酵素遺伝子が存在していました。第2染色体上には、スクロースを分解するSuSy (スクロース合成酵素) とInv (インベルターゼ) という2つの酵素遺伝子が存在することも分かりました。これらの酵素の働きを調べてみたところ、第8染色体添加型ではSPS活性が大きく上昇し、第2染色体添加型ではInvとSuSyの活性が上昇しておりました。つまり、それぞれの添加系統で観察されたフルクタン蓄積量の変化は、タマネギ染色体上の遺伝子の働きによりスクロースの合成や分解が行われた影響を大きく受けていたことが分かりました。結果的に、タマネギのフルクタン蓄積は別々の染色体上に存在する複数の遺伝子の影響を受けて行われており、その遺伝子の所在が明らかになってきたと言えます。
添加系統は、複数の染色体に散在する遺伝子間の相互作用を考えなくてもよいという利点をもつ材料であり、今後、各染色体に個別に対応した形で様々な遺伝子の機能的・遺伝的解析に利用され、タマネギの遺伝研究・育種技術の発展に寄与するものと期待されます。
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