細胞の中では、さまざまなオルガネラ (細胞内小器官) が膜によって区画化されています。中でも液胞は、植物に特徴的なオルガネラで、細胞内における不要成分の分解や貯蔵物質の蓄積など多彩な機能を担っています。液胞で働くタンパク質は、小胞体で合成された後に、ゴルジ体を経由して液胞へと輸送されます。ではこの輸送はどのような因子によって調節されているのでしょうか。私たちはその謎を解くため、ゲノムがわかっているシロイヌナズナの種子を用いて、液胞へのタンパク質の輸送に注目した解析を行いました。
高等植物の種子は芽生える時の栄養源として、大量の貯蔵タンパク質を液胞に蓄えています。即ち、未熟種子の細胞内では、貯蔵タンパク質が盛んに合成され、液胞へ輸送されています。従って、種子は 「液胞へのタンパク質の選別輸送の研究」 の格好の材料と言えます。これまでに私たちは、貯蔵タンパク質が液胞選別輸送レセプター (VSR) に結合することによってゴルジ体から液胞前区画へと運ばれることを示してきました。VSRは、貯蔵タンパク質を液胞前区画に運んだ後に、ゴルジ体へとリサイクルされると考えられます。Yamazakiら (pp.142-156) は、このリサイクルにレトロマーと呼ばれる複合体が関与していることを見出しました。レトロマーを欠損したシロイヌナズナの種子では貯蔵タンパク質が正しく液胞へ運ばれずに、誤って細胞外の空間に分泌されてしまいます (右上写真の下部の免疫電子顕微鏡像、黒点が貯蔵タンパク質の局在を示す)。この変異体の種子細胞では、液胞が小型化し、数が増えていることが分かります (右上写真の上部、黒い球状の構造体が液胞)。レトロマーの欠損変異体は、種子の液胞選別輸送以外にも欠陥を示しました。例えば、右下の写真に示されるように変異体 (MUTANTS) の植物体は野生型 (WILD TYPE) に比べ小さくなり、早く老化してしまいます。また、一部の種子の発達も途中で止まってしまいます (右上写真の中央部)。
以上の結果は、細胞内のタンパク質の選別輸送が、植物が個体として生きていくために必要な胚発生や成長や老化などのイベントに深く関わっていることを示しています。
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