「光エネルギー変換装置の分子集合」
地球上のほとんどすべての生物の生存は、光合成生物が固定した太陽からの光エネルギーに依存しています。光エネルギーを酸化還元エネルギーへ変換する光エネルギー変換装置は、光化学系と呼ばれます。酸素発生型光合成生物である植物、藻類およびシアノバクテリアでは、2種類 (系1および系2) の光化学系が直列に機能し、光合成電子伝達反応を駆動しています。光化学系は、複数のタンパク質に多数の電子伝達成分や光合成色素などが結合した複雑な構造をもつ超分子複合体です。そして、エネルギーとして不安定であり、また有害な副反応を引き起こしやすい光を、効率よく安全に酸化還元エネルギーへ変換します。
光エネルギー変換装置が存在するチラコイド膜を温和な界面活性剤で可溶化し、ショ糖密度勾配超遠心にかけると、大きさが異なる数本の緑のバンド (クロロフィル・タンパク質複合体) がきれいに分離されます。近年、クロロフィル・タンパク質複合体の結晶構造解析が大きく進展し、サブユニットとコファクターの配置の詳細が明らかにされてきました。その結果、どのように光を捕集し、酸化還元エネルギーへ変換するかの理解が大きく進展しました。しかし、複雑な構造をもつ複合体が正確に分子集合する機構は、その解析の難しさからほとんど明らかにされていません。
これまでに系1複合体の分子集合に必須な2つの因子 (Ycf3とYcf4) が葉緑体ゲノムにコードされていることが明らかにされ、この未解明の課題の解決の突破口になることが期待されています。これらの因子がどのように系1複合体の分子集合に関与するかを明らかにすることが重要課題です。そこで筆者らは、Ycf4をコードする遺伝子に点変異を導入し、系1複合体の分子集合が部分的に損なわれた葉緑体形質転換体を緑藻クラミドモナスから作出しました。得られた形質転換体の光合成的生育は、少量の細胞懸濁液を寒天培地上に滴下し、細胞が光独立条件下で生育し緑のスポットを形成するかどうかで調べます。さらに、複合体形成やタンパク質の蓄積およびパルス・チェースラベルなどの生化学的分析により、Ycf4は分子集合の初期過程に関与することが明らかにされました。複雑で多段階の系1複合体の分子集合の全体像を明らかにするには、さらに研究を続ける必要があります。
PCPギャラリー