「ストリゴラクトン : 植物ホルモンのニューフェース」
植物はみな、それぞれの種ならではの個性的な見かけをしています。見かけは、成長に伴って、何本もの枝をどの方向にどのように伸ばしてゆくかで決まります。植物の見かけにとって枝の伸び方がいかに大切かは、「枝ぶり」 という言葉があることからもよくわかります。
枝は、葉の付け根にある芽 (腋芽) が伸びたものです。葉の付け根に腋芽をつくる過程は、一般に、葉の形成に伴ってほぼ自動的に進行します。一方、つくられた腋芽が伸びるかどうかは、植物体の成長段階や環境条件などさまざまな要因の影響を受けます。たとえば、植物体の先端に芽 (頂芽) があると腋芽が伸びず、何らかの原因で頂芽が失われると腋芽が伸び出すという現象は「頂芽優勢」としてよく知られています。
これまで腋芽の伸長を制御する因子として植物ホルモンであるオーキシンとサイトカイニンが知られていました。ところが、エンドウやシロイヌナズナを用いて過去十数年間に行われた研究から、オーキシンやサイトカイニン以外の未知のホルモンが腋芽の伸長を制御しているという説が提唱されるようになりました。2008年には、イネとエンドウを用いた研究により、そのホルモンがストリゴラクトンと総称される物質であることが明らかになりました。
陸上植物の80%以上はアーバスキュラー菌根菌 (AM菌) と共生することにより、養分の摂取などさまざまな恩恵を受けています。ストリゴラクトンは、AM菌との共生を促進するために植物が根から分泌する物質であることが2005年に報告されており、また植物が分泌するストリゴラクトンが根寄生植物の発芽を促進することは1960年代から知られていました。つまり、ストリゴラクトンは植物体内で植物の成長を制御すると同時に、体外で他の生物との相互作用を仲介する物質だということがわかってきたのです。今後は、ストリゴラクトンの細胞での受容、信号伝達、作用などに関する研究が世界中で活発になると予想されます。
ホルモンの研究にはホルモンが作用しない変異体を用いた遺伝学的解析が有効です。イネdwarf14 (d14 ) 変異体では、ストリゴラクトンはつくられているのにホルモンとして作用することができません。d14 のような変異体を用いた研究が進行することにより、ストリゴラクトンという興味深いホルモンの働きが明らかになってゆくことでしょう。
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