かつてダーウィンが先駆的に見出した 「生物の進化と多様性」 は、現代生物学においても重要な問題であり続けています。そのメカニズムを深く理解する上で、生き物同士の多様な関係性が注目されています。その中で、植物が作りだす 「香り」 は、例えばミツバチが花粉を花から花へと媒介する時に利用する “道しるべ” として知られるように、動けない植物にとっての数少ない虫との会話の手段といえるでしょう。
植物が虫に食べられた場合、植物は 「テルペン」 や 「みどりの香り」 といった様々な香りを誘導的に生産・放出し、その虫を攻撃する捕食性の天敵を呼び寄せる現象が知られています。この植物と天敵生物間の香りを介した関係は、植物の被食防御法の一つ 「ボディーガードを雇う戦略」 と考えられます。興味深いことに、天敵を呼ぶ香りのブレンドは食べている虫の種によって微妙に異なります。例えば、香りを誘導する虫の唾液成分が特異的な香りブレンドを誘導し、さらに環境的な要因も合わさって、その虫の天敵を特異的に呼び寄せる香りになります。さらに、こういった香りを介した生物間の相互作用は植物と動物間に限ったものではなく、植物と微生物あるいは植物どうしの相互作用においても見受けられることが最近の研究によってわかってきました。それらの香りを介した相互作用に関する制御メカニズム、ならびに香りの自然生態系における生態学的役割に関する最近の研究について、本号911-923ページで紹介します。温暖化等の環境劣化によって失われつつある生物の保全に役立つ研究としても、今後発展させていきたい研究分野の一つであります。
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