「緑色光は光合成に役に立つ」
4月号は光合成の特集号です。この写真は、葉の光合成によるCO2固定速度を測定している様子です (写っている植物は、クワズイモ)。葉を箱にはさんで空気を通し、箱に入る空気と出てきた空気のCO2濃度を赤外線で検知することで光合成速度を求めます。上の方に写っている光ファイバーは6本あり、このうちの3本からいろいろな色の光を含む白色光、残りの3本から緑色や赤色の単色光を照射します。この実験では、白色光を当てて光合成速度を測定した後に、弱い緑色や赤色の単色光を足したときにどの程度光合成速度が増えるのかを正確に測定することによって、ある強さの白色光のなかで緑色や赤色がどの程度の効率で光合成に役に立っているかを調べました。
葉が緑に見えるのは、光合成色素のクロロフィルが緑色光を吸収しにくいからである、ということは定性的には正しい答えです。しかし、葉内部の光散乱によって緑色光は何度もクロロフィルに遭遇するので、普通の緑葉は、当たった緑色光の70-80%ほどを吸収します。赤色光や青色光の吸収率は90%程度ですから、その差はそれほど大きくありません。それでも、クロロフィルは緑色光を吸収しにくいから、光合成における緑色光の効率は赤色光よりも低いでしょうか。たしかに、白色光の強さを0にして、単色光だけを当てると、赤色の単色光の方が、緑色の単色光よりも有効です。しかし、徐々に白色光を強くした状態で単色光を足すと、緑色光の効率が赤色光の効率より高くなるようになります。白色光を強くすると、表側の葉緑体の光合成はだんだん光飽和しますが、裏側に近い葉緑体の光合成は光飽和に達していないという状況がおこります。この時、葉全体の光合成速度を高めるために赤色光を加えると、その大部分は表側の光飽和に達した葉緑体のクロロフィルに吸収されてしまい、そのエネルギーのほとんどは熱として散逸されることになります。一方、吸収されにくい緑色光の場合はかなりの部分が裏側に届き、光飽和に達していない葉緑体の光合成を駆動します。強光下で、効率よく光合成を駆動するのは、クロロフィルによく吸収される赤色光や青色光ではなく緑色光なのです。植物が、クロロフィルをうまく使って光を葉全体に行き渡らせていることが、初めて実証されました。
朱正 (大学院生)
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