「植物の美しい細胞パターンはどのように作られるのか」
身近な植物のからだの中には、様々な大きさや形をした無数の細胞が規則正しく並んでいます。このような細胞の 「個性」 は、細胞の大きさや形にとどまらず、その役割にまで及んでいます。例えば水や栄養分を運ぶ導管や師管は、ほぼ必ず植物の中央を通っています。そして中が空洞で細長い細胞が縦に並んで出来ています。それに対して、からだの一番外側にある表皮細胞は大きく扁平な形をしていて、しばしば表面から突起を出します。これら無数の細胞が、受精卵というたった1つの細胞から生み出されながら、どうしてこのような美しくも機能的な配置をとるのか、これはとても神秘的で研究者の意欲をそそる問題です。
下の写真は、アブラナ科植物のシロイヌナズナの根を輪切りにしたものです。シロイヌナズナの根の直径は0.1mm。とても細いのですが、その中にもこのように美しい同心円状の細胞パターンが見られます。中央の小さい細胞が集まっているところが導管や師管を含む維管束組織、その外側にある細長い細胞が 「内皮」、その外側の大きな細胞が 「皮層」、さらに外側に 「表皮」 と2層の 「根冠」 が順に配置しています (根の先端の表皮細胞は、まだ若いため扁平ではなく、表皮よりも外側に根冠があります)。これまでの研究で、SCRという遺伝子が変異して転写制御タンパク質が1つ無くなると、このような同心円状の細胞パターンが部分的に乱されることが分かっていました。今回我々の研究グループは、SCRのほかにAGO1という遺伝子もまた放射状のパターンを作るのに必要であることを発見しました。AGO1はマイクロRNAという小さなRNA分子が特定の標的mRNAを分解するのに必要なタンパク質を作っています。上の写真は、SCRとAGO1の両方が変異した植物の根です。このようにSCRとAGO1の両方が働かないと、根の中では大きさや形が似通った細胞がランダムに配置してしまいます。このような植物は、生存に必要な細胞がきちんと作られないために、実験室ではなんとか育てることが出来ても、自然界で生き延びていくことは困難です。
奈良先端科学技術大学院大学 中島 敬二
論文のURLは、
http://pcp.oxfordjournals.org/cgi/content/abstract/50/3/626
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