「リンゴのライフサイクルに関わる遺伝子の解析」
「桃栗三年柿八年、柚子の大馬鹿十八年」 といわれるように果樹などの木本性作物は、種を蒔いてから数年間は実がならない性質、いわゆる 「幼若性」 が存在します。この幼若性は、木本性作物の育種年限短縮や品種更新の際の障害となっています。例えば、リンゴ 「ふじ」 の育成では、種を蒔いてから開花・結実に至るまで10年以上もかかりました。
最近私たちは、遺伝子組み換え技術を用いてリンゴのMdTFL1という遺伝子の発現を抑制すると、幼若期間が短縮され、開花が早まることを明らかにしました。しかし、リンゴには MdTFL1 に構造が似た遺伝子 (相同遺伝子) が他にも存在していることが示唆されていました。そこで、相同遺伝子を探索したところ、MdTFL1a、MdCENa、MdCENb という遺伝子が見いだされました。MdTFL1aは、MdTFL1 と同様に花成を抑制する機能を持つことが示唆されました。一方、MdCENaは果実や根などで比較的高く発現しており、細胞増殖が盛んな組織で機能していることが示唆されました。
また、MdTFL1 を含めたこれら4つの遺伝子は、それぞれ異なる連鎖群 (リンゴは遺伝地図上で17の連鎖群に分かれます) に座乗していました。興味深いことに、双子遺伝子である MdTFL1 と MdTFL1a、もうひとつの双子遺伝子であるMdCENaとMdCENbは、部分的に同祖性が見られる連鎖群の異なるペアにそれぞれ座乗していることが分かりました。リンゴはバラ科 (Rosaceae) ナシ亜科 (Maloideae) に属し、染色体が17本であるのに対し、同じバラ科に属するモモ等は染色体が8本です。今回の研究結果は、ナシ亜科果樹類の染色体数が多いことを説明するために提案された倍数体起源 (polyploid origin) 説を支持しています。
日本では、「ふじ」 をはじめとした、世界に誇る優秀なリンゴ品種が育成されていますが、その幼若性、開花、結実を含むライフサイクルの生理的・分子的メカニズムや栽培種の起源の解明はイネやトマトなどの草本性作物に比べて遅れています。今後は、果樹 (果物) がもつユニークな特性や生理現象を分子レベルで明らかにしていくことが期待されています。
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