「植物栄養特集号に寄せて」
私たちの生活は植物に支えられています。私たちが呼吸する酸素は植物が生み出したものです。食糧は植物に依存しています。衣服、建物、医薬品など、身の回りの様々なものは植物が私たちにもたらしてくれるものです。また、花や緑は私たちの心を豊かにしてくれます。
植物がこのような豊かさをもたらすことができるのは、植物が土に生育することができるためです。植物は、私たちが利用できない、土壌の無機成分を吸収して生育することができます。日本に住む私たちには緑は身近な風景で、土に植物が生えてくることは当然のように思えますが、それも植物が土壌から必要な養分を選び出して吸い上げる能力があるためです。
最近の研究によって、植物がどのようなしくみで無機養分を吸い上げているかがわかってきました。植物の根にはトランスポーターと呼ばれるタンパク質があります。トランスポーターは細胞膜に埋め込まれたタンパク質で、特定の養分だけを細胞内に取り込む働きをしています。様々な養分に対応するトランスポーターが見つかってきています。また、トランスポーターは土の中の養分が沢山あるかどうかによって、その働きや蓄積量が変化することが分かってきました。私たち人間が空腹を感じて食事をするのと同じように、植物は土の中の養分がどのくらいあるのかに応じて、吸い上げる養分の量を調節しているのです。
このようなしくみが明らかになると、トランスポーターの働きを人為的に調節することによって、栄養が少なすぎる土でも生育できる植物をつくることもできるようになってきました。
今回の特集号には、このような研究の例を集めています。養分がどのようにとりこまれるか、取り込まれた養分がどのように植物体内を運ばれるか、運搬を担うトランスポーターはどういう性質か、トランスポーターをどのように使うと植物の生育を良くすることができるのか、といった内容の論文が集められています。
世界の人口は増加を続け、農耕地の面積は減少しています。農耕に適した土地では、より少ない肥料で多くの収穫を得ることが重要ですし、農耕に適していないと思われていた土地でも植物を生育させられるようにすることも、今後の人類の発展に極めて重要です。植物の栄養の研究はこういった人類が直面する課題を解決する一つの手段を提供していくと期待されています。
藤原 徹
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