『一日ニ玄米四合ト味噌ト少シノ野菜ヲタベ…』
穀物は最も重要な作物であり、世界中において食料として消費されるカロリーの約44%が三大穀物であるトウモロコシ、コムギ、イネ (お米) によってまかなわれています。穀物は単にカロリー源となるだけでなく、生物の体をつくるタンパク質の構成成分であるアミノ酸源でもあります。冒頭は有名な、宮沢賢治の 「雨ニモマケズ」 の一節です。多くの現代日本人は肉・魚を主なアミノ酸源としていますが、昔の日本人にとってはお米も重要なアミノ酸源であったことがうかがえます。現代でも肉・魚を得にくい地域に居住している人々にとっては植物が重要なアミノ酸源になっています。また、穀物は人類にとっての食料だけでなく、飼料として家畜・家禽に与えられているため、穀物のアミノ酸源として果たす役割は非常に重要であると言えます。しかし人類や豚、鶏などの家畜・家禽は必須アミノ酸と総称されるリシン、トリプトファン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、バリン、ヒスチジンといったアミノ酸 (※必須アミノ酸は動物によって異なる) を体内で充分量合成できず、栄養分としてバランスよく摂取する必要があります。穀類ではリシン、トリプトファンが主に不足しているので、飼料として与える際には工業的に生産されたリシンやトリプトファンが添加されています。また、遺伝子組換え技術によってリシン含量を増加させたトウモロコシが開発され、日本でも食品・飼料として承認されています。
今月号の表紙はイネ籾の拡大写真です。今月号の1964-1974ページには、お米に含まれる遊離リシン含量を制御するリシン分解酵素 (OsLKR/SDH) 発現量の制御機構についての論文が掲載されています。お米に含まれるタンパク質のほとんどは発芽後のアミノ酸源として蓄積される種子貯蔵タンパク質ですが、遊離アミノ酸としてのリシン分解にかかわるOsLKR/SDH 遺伝子も種子貯蔵タンパク質遺伝子と非常によく似た組織で発現していました。さらに詳細に調べると、OsLKR/SDH 遺伝子は種子貯蔵タンパク質遺伝子と同様に、RISBZ1、RPBFという転写因子によって直接制御されていることがわかりました。これら2つの転写因子の機能を弱くした形質転換イネではOsLKR/SDH 発現量が顕著に減少し、リシンを分解できなくなるため、遊離リシン含量が約14倍に増えていました。一方で、OsLKR/SDH 遺伝子と種子貯蔵タンパク質遺伝子の発現制御には大きく異なる点もあることがわかりました。これらの知見を元にさらにリシン含量を増加させたお米を開発することが今後の課題です。
PCPギャラリー