地球上のすべての生物は細胞から成り立っています。これらのうち、核を持つ真核生物では、個体を構成する細胞の数や個体の形及び大きさが大変異なります。それにもかかわらず、細胞が分裂するプロセスはよく似ており、どの細胞を見ても、遺伝物質であるDNAと染色体が倍加して、その後に、増えた染色体のセットと細胞質が二つに分かれて、子孫の細胞ができます。この一連のプロセスは細胞分裂周期 (一般的には細胞周期) と呼ばれ、種々の真核生物の間で、よく似た仕組みにより実行されていると考えられています。しかし、細胞周期の最終段階である、染色体と細胞質が二つに分かれる過程 (M期の後半から細胞質分裂と呼ばれている過程) は、生物により見かけ上大きく異なっています。例えば、動物の細胞質分裂は、細胞が外側から内側へ向かって 「くびれる」 のに対して、植物では、細胞の内部に小さな細胞板 (仕切り) が作られ、それが拡大して、最終的に細胞質と核を二分します。
今回の表紙に関連する原論文では、MAPキナーゼ・カスケードと呼ばれている3つのタンパク質リン酸化酵素による 「一連のタンパク質のリン酸化反応系」 が、シロイヌナズナにおける細胞質分裂 (細胞板の拡大) を制御している可能性を報告しています。すでに、タバコにはこの一連のリン酸化反応系が存在していることが知られていますが、近年のゲノム解析の結果は、イネを含めて多くの植物種にこの反応系が存在していることを示唆しています。しかし、酵母や動物には認められません。もしかしたら、このリン酸化反応系は植物の細胞質分裂を制御している一般的かつ特徴的なモジュールかもしれません。今回の表紙写真は、これらの酵素の一つ (緑) が細胞板形成部位 (赤) に存在していることを示しています。
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