植物地上部の枝分かれは、さまざまな外的、内的な要因によって制御されていますが、ストリゴラクトン (SL) という新しい植物ホルモンが、枝分かれの抑制に関与していることが明らかになりました。SLは最初、植物の根に寄生する根寄生植物の種子発芽を特異的に誘導する発芽刺激物質として発見されました。根寄生植物の種子は一般の植物の種子とは異なり、温度、酸素、水分以外に、宿主植物の根から分泌されるSLを受け取った時にだけ発芽します。光は発芽を阻害します。SLは植物の根から極少量分泌されますが、非常に不安定で急速に分解してしまいます。そのため土壌中では宿主の根から数ミリ以内に存在する根寄生植物の種子だけが発芽します。根寄生植物によって寄生された植物は栄養水分を奪われるため、その生育が著しく阻害され、場合によっては枯れてしまいます。実際に根寄生植物はサハラ砂漠以南のアフリカ諸国などの食糧生産に甚大な被害を与えています。
根寄生植物の発芽刺激物質として発見されたSLですが、その後、植物は、共生菌であるアーバスキュラー菌根菌 (AM菌) の共生シグナルとしてSLを分泌していること分かりました。根寄生植物はそのシグナルを「悪用」しているのです。陸上植物の80%以上がAM菌と共生し、その共生関係は4.6億年前に確認されていますので、SLは極めて古い化学物質と言えるでしょう。
表紙の写真は野生型イネの枝分かれ (分げつ) の様子です。イネに含まれているSLの1種 (2'-epi-5-deoxystrigol) の構造も示されています。SLの植物ホルモンとしての働きは、イネ、シロイヌナズナ、エンドウ、ペチュニアの枝分かれ変異体の詳細な解析から明らかになりました。
ストリゴラクトン特集号では、根寄生植物の発芽刺激物質としてのSLの構造多様性、AM菌の菌糸分岐誘導活性におけるSLの詳細な構造活性相関、リン酸欠乏条件におけるSL生合成とシグナル伝達を介した分げつ芽の成長制御、SLの下流で分げつを制御するFC 遺伝子、SLの細胞分裂阻害によるメソコチルの伸長抑制およびユニークなSL生合成阻害剤について解説しています。
最近、SLの新たな生理作用についての報告が相次いでいます。この古くて新しい植物生理活性物質SL研究の新たな局面が拓かれるものと期待されます。
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