きれいな花をつける被子植物が受精を達成するためには、オスの花粉とそこから伸びる花粉管が、メスの雌蕊 (めしべ) とのやりとりを成功させる必要があります。この20年間の研究により、さまざまな分泌性のペプチド (低分子量タンパク質) がこの相互作用に関わることが明らかとなってきました。こうしたペプチドには、自家不和合性、花粉発芽、花粉管伸長、そして花粉管ガイダンスに関わるものがあります。雄と雌の細胞の両方が、複雑なやりとりのためにペプチドを分泌します。表紙の花は、胚嚢(卵装置)が胚珠(受精前の種子組織)から裸出するユニークな植物トレニアです。ゴマノハグサ科の植物です。トレニアは胚嚢を生きたまま観察したり顕微操作したりできることから、生殖研究のモデルとして注目を浴びています。また、胚嚢への花粉管誘引や受精過程を観察できる体外重複受精系が開発されています。140年以上に渡って謎とされてきた、胚珠から分泌される花粉管誘引物質が、ついにこの植物において同定されました。それは、卵細胞のとなりにある2つの助細胞から分泌される複数のペプチドで、ルアー (LURE1およびLURE2) と命名されました。ルアーは、表紙の写真で示す通り、同じトレニアの花粉管を培地上で誘引することができます (写真提供:名古屋大学大学院理学研究科 奥田哲弘)。本号177-189ページでは、植物の受粉・受精過程で働くペプチドについて概説します。興味深いことに、それらのペプチドの多くが、システインに富むペプチドです。受粉から受精に至るまでの一連の過程で働くペプチドについて、特徴をまとめ、植物の受精におけるペプチドの役割について議論します。
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