植物の表皮に形成される気孔は、植物が光合成や呼吸を行う際に酸素や二酸化炭素の通り道となり、人で言う 「口」 のような役割を果たしています。また、植物は根から養分とともに吸収した水を、水蒸気として葉の気孔から蒸散させることで、効率よく養分を全身に行き渡らせています。気孔はくちびるのような形をした一対の孔辺細胞から成る器官で、孔辺細胞の間の隙間を通して空気を取り入れます。植物は、孔辺細胞の張り具合を調節することにより隙間を調節できます。気孔を開く、つまり隙間を大きくすると光合成に必要な二酸化炭素をたくさん取り込めますが、水を失ってしまいます。そこで、植物は、土の乾燥具合、一日の時間帯、光の量等に応じて、気孔の開度を調節しているのです。さらに、植物は、環境に応じて、形成する気孔の数も調節しています。
成長点の周辺に形成されたばかりの幼い葉は最初、原表皮細胞と呼ばれる未分化な表皮細胞で覆われています。この細胞の一部が分化してメリステモイドと呼ばれる三角形をした気孔前駆細胞が生じ、不等分裂を繰り返しながら成熟して楕円形の孔辺母細胞となり、この孔辺母細胞が等分裂して一対の孔辺細胞、すなわち気孔が形成されます。このとき気孔が隣り合って形成されることのないように、不等分裂の分裂面が調節されていることが知られています。この気孔の形成過程は表皮上で連続的に起こり、しかもメリステモイドや気孔が形態的に特徴のある細胞であることから容易に顕微鏡で観察できます。そのため、植物細胞がそれぞれ機能を持った細胞へ分化していく過程を研究するモデルとして注目されており、ここ数年で新しい発見が相次いでいます。筆者らは、表皮上に気孔が形成される過程が、ペプチド性のホルモンであるstomagenによって誘導されていることを突き止め、その化学構造を明らかにしました (本号 1-8 ページ参照)。Stomagenは葉の内部の細胞から分泌され、気孔が形成される葉の表皮に働きかけて気孔の数を調節しています。化学合成したstomagenは10nMという非常に低い濃度でシロイヌナズナの葉の気孔密度を上昇させることができます。stomagenの研究を通して気孔の形成過程の全貌が明らかにされれば、将来的に、気孔の数を調節することで乾燥に強い植物や光合成効率の高い植物を作り出すことができるかもしれません。
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