「今、トマトが面白い! 遺伝子機能解析が加速」
ナス科植物であるトマト (Solanum lycopersicum ) は、世界中で商業的、産業利用を目指した開発研究の対象として重要な作物の一つです。また、果実発達や成熟、物質代謝といった果実における生理・生物学的研究を行うためのモデルシステムでもあります。これら基礎研究及び開発研究における重要性からナス科のモデル植物として国際コンソーシアムによりトマトゲノム解読が行われ、現在その大部分が完了しています。今後は明らかにされたゲノム情報を活用し、遺伝子機能解析を行うことが重要な研究課題となります。
近年、矮性トマト品種 「マイクロトム」 は、機能ゲノミクス研究を加速するモデルトマト品種として広く研究に利用されています。その特徴は、植物体が小型であり、蛍光灯下でも栽培可能、ライフサイクルが一般的なトマト品種と比べて短いなど研究材料として優れた点を持っていることがあげられます。これまでに私たちの研究グループでは、「マイクロトム」 を基盤としたトマトの機能ゲノミクス研究ツールを確立するために、ゲノム全体にランダムに点変異を導入することが知られている化学変異原 EMS (Ethyl methanesulfonate) を処理した変異体集団を作出し、果実の大きさ、形、色など、様々な変異形質を有する変異体の収集およびそのデータベース 「TOMATOMA」 (http://tomatoma.nbrp.jp/) の構築を行ってきました。このリソースの利便性をさらに向上させるために、筆者らは、標的遺伝子内に点変異を持つ変異体を 「マイクロトム」 変異体リソースから逆遺伝学的手法により効率的に探索するツールとしてトマトのTILLING技術プラットフォームを開発しました。本研究において、TILLING技術を用いて果実成熟に関連する6個のトマトエチレン受容体遺伝子について変異のスクリーニングを行い、Solanum lycopersicum ETHYLENE RESPONSE1 (SlETR1 ) 遺伝子の新規の変異アリル (Sletr1-1, Sletr1-2 ) を単離しました。これらの変異体をさらに解析した結果、Sletr1-1 は、オレンジ色の段階で果実成熟が停止する強いエチレン非感受性の表現型を示しました。一方、Sletr1-2 は、野生型と比較して果実の日持ち性が向上しつつも、赤熟するという穏やかなエチレン非感受性表現型を示すことが明らかになりました。私たちの研究結果は、「マイクロトム」 のTILLINGプラットフォームが迅速に新しい変異アリルを発見することを可能にし、トマトの遺伝子機能解析を加速する有効なツールとなることを明らかにしました。今後、このツールを活用することで、多くのトマト遺伝子機能が解明されるものと期待されます。
岡部 佳弘 (筑波大・大学院生)
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