細胞抽出液を用いた試験管内翻訳系は遺伝子発現の転写後制御を調べる実験系として大変有効です。大腸菌のS30抽出液、コムギ胚芽抽出液、ウサギ網状赤血球ライセートは代表的な試験管内翻訳系であり、これらは市販されています。研究を進める上で、遺伝学と生化学は車の両輪ともいうべきものです (そして、生理学という地図を見ながら分子生物学のエンジンで走らせると言っても良いでしょう)。一方、モデル植物であるシロイヌナズナでは遺伝学的あるいは分子生物学的研究のための膨大な資源の蓄積があります。シロイヌナズナの試験管内翻訳系があれば、遺伝学と生化学とを組み合わせた研究が可能となります。
Murota et al. (本号 p.1443-1453)では、シロイヌナズナの芽生えからつくったカルスを出発材料とした試験管内翻訳系を報告しています。一般に植物細胞では液胞が発達しており、液胞にはタンパク質分解酵素や核酸分解酵素が多量に含まれます。したがって、植物細胞から試験管内翻訳系を調製するには液胞を除去する必要があります。表紙の図は、液胞を除去したプロトプラスト (脱液胞化プロトプラスト) を調製するところを示しています。カルスから調製したプロトプラスト(右上)を10-35%のパーコール密度勾配に重層します(右中)。12,000xg で遠心すると (中央)、35%と55%のパーコールの境界に脱液胞化プロトプラスト (左下) が集まり、ほとんど液胞だけの小胞が上に浮きます (左上)。両者の間には部分的に液胞が除かれたプロトプラストが層をなします (左中;これらの写真は複数の顕微鏡写真をつないでいます)。脱液胞化プロトプラストから調製した試験管内翻訳系は市販のコムギ胚芽抽出液と比べて遜色のない翻訳活性を持っています。
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