植物の表皮に存在する気孔は、一対の孔辺細胞により構成される孔で、光合成に必要な二酸化炭素の取り込み、蒸散や酸素の放出など、植物と大気間のガス交換を担っている。気孔は青色光により開口するが、青色光は孔辺細胞に発現する青色光受容体フォトトロピンにより受容され、細胞内シグナル伝達を経て最終的に細胞膜H+-ATPaseのC末端から2番目のスレオニンをリン酸化し活性化することで引き起こされることが明らかとなっている。これまで、H+-ATPaseの活性化状態は、孔辺細胞プロトプラストを用いて調べられてきたが、プロトプラスト調製には大量の植物体 (シロイヌナズナの場合、5,000枚以上のロゼット葉) と8時間以上の調製時間が必要であった。
Hayashi et al. (本号 p.1238-1248) では、H+-ATPaseのC末端のリン酸化スレオニンに対する特異的抗体を用いた免疫組織染色法により、一枚のロゼット葉由来の表皮を用いた孔辺細胞のH+-ATPaseの活性化状態の可視化に成功し、表皮ではプロトプラストと比べ孔辺細胞の青色光やアブシジン酸 (ABA) に対する感受性が高いことを明らかにした。さらに、この手法をABA変異体に適用し、青色光に依存したH+-ATPase活性化のABAによる阻害に、ABI1、ABI2、OST1を介したABAの初期シグナル伝達系が関わっていることを明らかにした。カバーページの写真は、免疫組織染色により表皮組織の細胞膜H+-ATPaseを検出した蛍光写真であり、孔辺細胞では際だってH+-ATPaseの発現量が多いことがわかる。
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