「次世代シークエンサーによる変異体の原因変異の革新的な同定法」
生物の重要な特徴の1つは、子が親に似るというような世代を超えて形質が伝わる遺伝とよばれる現象です。1800年代にメンデルにより発見されたこの遺伝の法則をもとに発展したのが遺伝学です。遺伝学は学術の推進にとどまらず、品種改良などにも広く応用されています。この遺伝学の研究の重要な一面は、様々な興味深い性質を示す数多くの突然変異体の利用です。それぞれの変異体の性質の原因はほとんどの場合、ゲノムに存在する膨大な核酸配列 (例えば、双子葉植物研究のモデル植物シロイヌナズナのゲノムは1億を超える配列から成ります) の中のたった1箇所に生じた変化 (原因変異) です。この原因となる変異を見つけ出すことが、研究を進める上で非常に重要なステップです。そのためには、変異体のゲノムを全域に渡って解読し、変化した場所を直接探すのが一見簡単に見えます。しかし、全ゲノムを各個の研究者が自分の手で解読することは、従来コストと手間の面から不可能でした。そのため、原因変異を見つけるには、全ゲノムを解読せずとも可能であるマップベースクローニングと呼ばれる手法が用いられてきました。しかし、この方法は、場合によっては数年かかることもあるような時間と手間のかかる手法であり、このステップを簡便に迅速に遂行することは従来から強く望まれてきたことでした。近年、膨大な量の核酸配列を短時間で解読する次世代シークエンサーが開発され、その利用は生物学の様々な研究領域に革新的な変化を促しつつあります。本号の表紙を飾ったUchida et al. (pp.716–722) の論文では、次世代シークエンサーを用いてシロイヌナズナの変異体の全ゲノムを解読した上で、得られた膨大な配列情報 (解読のエラーやノイズを含む、必ずしも完全ではない情報) の中から原因変異を見つけ出す新しい方法を紹介しています。そして、実際にその手法により、変異体の原因変異を非常に短期間 (10日程) かつ簡便に同定することに成功しています。今後この革新的な方法は、学術的な観点だけでなく、育種などといった応用的な面でも、広く用いられていくことになると期待されます。
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