「植物の器官形成を促進するオルガネラ局在性の多剤排出トランスポーターの発見」
植物の形づくりは、ゲノムにプログラムされていますが、可塑性に富んだ特性も持ち合わせています。特に、茎頂分裂組織における葉や腋芽などの器官形成のタイミングや空間的位置が最終的な植物の形態に大きく影響を与えます。近年の研究により、葉の形成開始位置がどのように決定されているかは解明されてきましたが、葉の形成を開始するタイミングやその時間間隔を決定する分子メカニズムは未だ不明です。
本号のカバーページを飾った Burko et al. (pp.518-527) はシロイヌナズナの多剤排出トランスポーター (MATE) をコードするZRIZI 遺伝子が植物の器官形成のタイミングや時間間隔に関与していることを明らかにしました。ZRIZI 遺伝子は、細胞内でミトコンドリアとその周辺に存在しており、これまでの研究により、アントシアニンの蓄積、鉄イオンの恒常性や生物学的・非生物学的ストレスからの防御に関与していることが知られていました。興味深いことに、ZRIZI 遺伝子を葉または茎頂分裂組織に過剰発現させると、野生株と比べ、葉の形成速度が速まり、腋芽の成長が早まっていることが明らかとなりました。この結果は、葉や腋芽の形成間隔が短くなっていることを示しており、本研究により、これまで不明であった植物の器官形成のタイミングや時間間隔を決定する分子メカニズムを解明する重要な手がかりが得られました。
今後、細胞内オルガネラであるミトコンドリアに存在する多剤排出トランスポーター ZRIZI が、どのようにして茎頂分裂組織における器官形成に関わっているのか、その分子機構の解明が待たれます。
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