「道管形成パターンを制御する細胞間相互作用因子」
植物の血管とも言うべき維管束は、道管、篩管、その働きを支援する他の多くの細胞、さらにはこれら全ての細胞のもとになる前形成層・形成層細胞が秩序だって並んだ複雑な組織です。私たちは、この維管束を構成する細胞のパターン形成に、植物固有の小ペプチドであるCLEペプチド (シロイヌナズナでは26種) の1種TDIFが働くことを示してきました。今回の論文では、新しいタイプのCLEペプチドが、TDIFとは異なる場面で、木部道管の形成に関与することを明らかにしました。
維管束は植物の中央部に位置するので、その構造を観察するには、これまで植物体を機械的に薄切りにして見ることが常套の手法とされてきました。実際に、私たちが教科書などで目にする維管束の写真もほとんどが輪切り切片です。しかしこれでは、維管束の3次元的につながるネットワークの様子を再現することができません。
今回の表紙の写真は、CLEペプチドの受容体に欠陥のあるシロイヌナズナ変異体 clv2 の根維管束の構造を示しています。それぞれ、維管束の縦断面 (左上)、横断面 (右上)、そして3次元構築画像 (中央) を示しており、共焦点レーザー顕微鏡で得られた画像約200枚をもとに再構築しました。このように、根をそのまま用いて、この光学的な切片を重ね合わすことにより、これまで2次元的にしか捉えることができなかった維管束組織(篩部組織 (緑)、木部道管 (赤、青) など)を3次元的にはっきりと捉えることができるようになりました。さて、変異体ですが、通常のシロイヌナズナでは、原生木部道管 (赤) が両極に対をなして1本ずつ形成されるのですが、この変異体では写真のように片側に2本以上形成されてしまうことが明らかになりました。この変異体では、CLEペプチドを介した細胞同士のコミュニケーションがうまくいかないために、過剰に道管が形成されてしまいます。このように、維管束を適切に配置し、体中にはりめぐらせていくためには、CLEペプチドを介した細胞間の相互作用が重要であることが分かってきました。
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