膨大な数のチラコイドを含む葉緑体をもつヒメツリガネゴケの細胞。チラコイドではゼアザンチン (模式的に螺旋状に配置) が蓄積しており、クロロフィル蛍光の非光化学的消光 (NPQ) が起きる。チラコイド膜の非変性 DERIPHAT-PAGE (緑色のゲル) と変性 SDS-PAGE (クマシー染色) による分画像も左端に示す。
乾燥および塩ストレスは植物の生長にとっての主要な非生物的制約となっている。このような条件下では、光合成障害をおこし、主に葉緑体、ペルオキシソーム、ミトコンドリア、アポプラストで有害な活性酸素種 (ROS) が発生する。この現象は光酸化を引き起こす強光照射でさらに悪化し、細胞毒性や細胞死を引き起こす。過剰な光照射下での酸化ストレスに対してNPQは植物細胞で最初に起こる重要な防御反応機構となっている。この論文 (p.1815-1825) で、Azzabi らはヒメツリガネゴケで適度な塩 (NaCl) ストレスおよびソルビトールによる浸透圧ストレス条件のもとでのNPQの増加を報告している。さらに、NPQの増加度はゼアザンチンの過剰な蓄積、およびビオラキサンチンデエポキシダーゼ酵素の存在と相関があり、光合成装置の変化とは相関がなかった。ビオラキサンチンデエポキシダーゼ酵素はキサントフィルサイクルの一部を構成していることが知られており、これらの新知見は、蘚類において強光・乾燥・塩ストレス条件のもとでのNPQ応答制御にキサントフィルサイクルが一定の役割をもつことを示している。
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