「葉緑体分裂を完了するのに働く植物特有の制御タンパク質」
葉緑体の分裂は数多くの核遺伝子の働きによってコントロールされています。シロイヌナズナの CRUMPLED LEAF (CRL ) 遺伝子も葉緑体分裂に関与する遺伝子のひとつで、この遺伝子が変異すると植物体が矮小になり、葉緑体が巨大化することが知られていました。興味深いことに、CRL 遺伝子は植物に広く存在しますが、藻類には見つかりません。しかし、植物におけるCRLの分子機能については未だ不明です。
本号の表紙を飾ったSugita et al. (pp.1124-1133) は、葉緑体分裂におけるCRLタンパク質の役割を調べるためヒメツリガネゴケというモデル植物を使って研究を行いました。表紙の写真でおわかりのように、ヒメツリガネゴケの原糸体と茎葉体の細胞は葉緑体を観察するのに適しています。ヒメツリガネゴケの CRL 遺伝子をノックアウトした変異株を観察したところ、通常50個くらいある葉緑体が10個程度に減り、細胞の中は大きな葉緑体で占められていました。遺伝子破壊株の原糸体細胞を時間を追って詳細に観察したところ、分裂中のダンベル型になった葉緑体のくびれが途中段階で停止し、くびれが緩んで大きな葉緑体になるのが観察されました。このように、CRLタンパク質がないと葉緑体分裂の最後の仕上げがうまくいかないことがわかりました。CRLタンパク質は葉緑体分裂装置の働きを最終段階でコントロールする調節因子として働いていると考えられます。今後は、CRLタンパク質がどのようにして葉緑体分裂の完成に関わっているのかその分子メカニズムを解明する必要があります。
PCPギャラリー