「イネ液体培養系と positive/negative 選抜を組み合せた効率的相同組換え系の確立」
相同組換えにより機能欠損型の遺伝子を導入して、その遺伝子の機能を推定する遺伝子ノックアウトの技法はマウスやイースト、バクテリアなどで盛んに使われています。しかし高等植物では相同組換え効率が低いため遺伝子ノックアウト技法は普及していませんでした。これまでに植物の低い相同組換え効率を改善するために多くの試みがなされています。イネでは negative/positive 選抜法により遺伝子ノックアウトイネが作出されています。しかしこの方法で相同組換え体を得るためには1万~10万の形質転換細胞を作出する必要があり、過大な労力が必要なため、あまり普及しませんでした。私たちはこれまでにイネ液体培養系を利用した、非常に効率的なイネ形質転換系を確立していました。この形質転換法と negative/positive 選抜法を組み合せることにより、より効率的なイネ相同組換え系を確立することに成功しました。
今回の表紙の写真は、液体培養したイネのカルスをアグロバクテリウム法により形質転換 (ハイグロマイシン抵抗性遺伝子、β-グルクロニダーゼ遺伝子を導入) したものをGUS染色し、形質転換効率を調べたものです。アグロバクテリウムとの共存培養後、ハイグロマシン培地で1週間、培養したカルスをGUS染色しました。カルス表面から増殖してきた、無数のハイグロマシン抵抗性カルスが染色されています。今までのイネ形質転換方法と比較し、液体培養したカルスを用いることにより、数十倍の効率で形質転換細胞を得ることができます。この形質転換方法と negative/positive 選抜法を組み合せることにより数グラムのカルスより遺伝子ノックアウトイネを作出できました。その効率を調べたところ、1g のカルスより約17個の negative/positive 選抜カルスが得られました。そして選抜カルスの約1.5%が相同組換えカルスでした。今回の報告ではWaxy 遺伝子、β1,2-xylosyltransferase 遺伝子ノックアウトイネを作出しています。本遺伝子ノックアウト技法により、マウス等と同様に高等植物のイネにおいても、遺伝子ノックアウトの作出と遺伝子機能解析は一般的な手法として普及していくことでしょう。
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