「クロロフィルの合成を人工的に調節すると葉の老化が遅れることがわかった」
人間と同じように植物も老化します。老化、というと、細胞が 「古く」 なって壊れていくようなイメージを持つ方も多いかもしれませんが、植物の葉の老化はむしろ、積極的に自分自身の細胞を分解して、次の世代に養分を残す、という過程です。ですから、葉の老化過程には、さまざまな遺伝子、タンパク質が必要です。葉の老化メカニズムをさぐるために多くの研究者が、植物のホルモンや植物の核内ではたらく遺伝子の研究を進めてきましたが、これまで、植物の核以外のオルガネラが老化の過程でどのような役割を果たすのか、についてはあまりわかっていませんでした。今回の研究では、クロロフィルの合成を人工的に調節すると葉の老化が遅れることがわかりました。植物は葉にクロロフィルaとクロロフィルbという2種類の葉緑素を持っています。通常、植物のクロロフィルaとクロロフィルbは3:1くらいの比率で存在するのですが、クロロフィルaをクロロフィルbに変換する活性を持つクロロフィリドaオキシゲナーゼという酵素を葉緑体の中で大量に作らせると大量のクロロフィルbができて、クロロフィルaとクロロフィルbの比率がおおよそ2:1くらいになります。そうすると、老化のときにクロロフィルが分解するタイミングが遅れるだけでなく、多くの核内の遺伝子発現までが変化し、老化に関わる遺伝子の発現が全般的に遅れることがわかりました。詳細なメカニズムは不明ですが、これは、クロロフィルを結合して、光合成に関与するタンパク質の分解速度が、クロロフィルaとクロロフィルbの比率の変化によって、遅れて、その結果、老化の過程自体に影響が及んだのではないかと推測しています。これらの結果は、葉緑体が老化の過程にとって重要な役割を果たすことを示唆しています。
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